「ダブルメジャー」の競争力

②文部科学省が後押しする「ダブルメジャー」
 2020年度に文部科学省が開始した大学・短期大学を対象とした事業に、「知識集約型社会を支える人材育成事業」というものがあります。「今後の社会や学術の新たな変化や展開に対して柔軟に対応しうる能力を有する幅広い教養と深い専門性を両立した人材を育成することを目的」とした財政支援を行っています。

 特に興味深いのは、「文理横断・学習の幅を広げる教育プログラム」として、2つの専門科目を専攻するダブルメジャーや、分野融合の学位プログラムなどといった、複数の分野を理解し習得することを後押ししている点です。

 新潟大学、金沢大学、信州大学、大正大学、東京都市大学などの事業が採択され、それぞれ個性あるプログラムを提供しています。

 また、文部科学省所管の独立行政法人である日本学術振興会は、「人文社会科学系分野の大学院において、データサイエンス・コンピュータサイエンスの素養を持った人材を育成することを目的」として、2022年度から「デジタルと掛けるダブルメジャー大学院教育構築事業〜Xプログラム〜」という事業を展開しています。

 このような動きのうち、特にダブルメジャーは、これから新しい分野を学んでいく上で欠かせない考え方になっていくのではないかと思われます。

 例えば、2024年3月に「2つの専攻分野を持つ『ダブルメジャー』が一般的になる?…レイオフやAIの脅威に対して有利に」という記事が、ビジネスニュースサイト「Business Insider」に掲載されました。全米経済研究所(NBER)が2024年1月に発表した論文について書かれており、中でも重要な発見として、次のような考察がありました。

・ダブルメジャーの人は、シングルメジャー(専攻が一つ)の人に比べて、失業や減給といった要因に関連した収入の変化、「アーニング・ショック(earnings shocks)」を経験する可能性が56%低い
・ChatGPTのような新たなAIのテクノロジーが仕事の一部、あるいは仕事全体を置き換えるかもしれない未来において、ダブルメジャーの人はより良いポジションにいられる可能性がある

 つまり、ダブルメジャーを持つ人は、AIがもたらす影響に対してもより早く適応し、仕事の安定性を高めることができる可能性があるというのです。

 ここでお伝えしたいことは、「定年4.0」の時代を迎えるにあたり、会社員の方も何か一つ、ご自身の本業以外に、趣味も含めた専門家として自分の得意分野を持ち、できれば時間をかけて複数の分野のスキルを身につける努力をしておくことが、不確実な時代に自分自身のキャリアや雇用を支える「芸は身を助ける」好循環を生み出すだろう、ということです。

後藤 宗明(ごとう・むねあき)

 一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。SkyHive Technologies 日本代表。
 2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ(https://jp-reskilling.org/)を設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を行うリスキリングプラットフォームSkyHive Technologiesの日本代表に就任。石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所 客員研究員を歴任。政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書に『リスキリング』『リスキリング【実践編】』(日本能率協会マネジメントセンター)

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ