高齢者の定義年令引き上げ検討のニュースもあり、定年後も積極的に働かざるを得ない時代はそこまで来ているが、AIの台頭でなくなる仕事も増えると言われており、ことはそう簡単ではない。定年後の雇用機会とAIリストラへの対策をどう考えればいいのか。リスキリングの第一人者の見方とは──。
※前編「いよいよ日本でも「AI失業」、自動化に直面するフルタイムワークは全世界で3億人分の恐怖」
※この記事は、『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』(朝日新書)より一部抜粋・編集したものです。
組織のチェンジマネジメントとリスキリング
急速に進むAIによる産業構造の創造的破壊に対応するため、各企業は「組織における変革(チェンジマネジメント)」を推し進める必要が出てきています。
例えば、最近よく耳にするデジタル・トランスフォーメーション(DX)というのは、デジタルを活用してビジネスモデルを大きく変革させるチェンジマネジメントの取り組みであると言えます。
チェンジマネジメントを推し進める手法として、ハーバード・ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱する「変革の8段階のプロセス」や、ADKAR(アドカー)モデルなど、さまざまなフレームワークがありますが、組織の変革のためには、個人の変革が欠かせない要素となっています。
大規模な事業転換のタイミングを迎えている自動車業界は、まさにチェンジマネジメントが進んでいる業界で、リスキリングの実施が急務となっています。
例えば、今後自動運転の技術がさらに進化し、レベル5(完全自動運転が実現できるレベル)に到達した場合、当然多くのドライバーの仕事がなくなっていくことが予想されます。現在、トラック運転手の人材不足が続いていますが、現在を過渡期だと考えると、いずれ自動運転でカバーされるようになっていくのかもしれません。
昔は馬車が交通手段だったわけですが、自動車の普及により、馬による移動は急速に衰退しました。現在における馬による移動と言えば、競馬と乗馬など趣味の世界で行われる程度になりました。
飲酒運転や居眠り運転による事故を防ぐために、人間による運転が将来禁止されるだろうという議論も一部では起きています。仮にそうなった場合、人間が運転できるのは、競馬や乗馬と同じように、趣味の世界に限られ、レース場だけになるといったことも考えられます。
このような状況下で、「馬車の仕事をしたい」「ドライバーの仕事をしたい」と従業員が希望しても、会社にはそのポジションがなくなっています。そのため、結果的に、会社が新しく目指す事業方針を実現していくためのリスキリングをやるのか、やらないのか、という大きな決断を働く個人が迫られるようになっていくのではないでしょうか。