浮いた高校の学費は中学受験支出に流れる
赤林:首都圏や近畿圏の大学進学上位の私立高校は中高一貫校が中心です。生徒のほとんどが中学校からの入学者で、高校から中高一貫校に行かせる家庭は少数です。中学受験ができるような家庭は所得水準が高く、教育への投資も熱心。対して、高校から私立に通う子どもは基本、中学は公立ですので、中学受験組と比較すると学習の進度にも差があります。
そうした中で、中高一貫校が高校からの募集という門戸を閉ざしつつある現実があります。端的に言えば、今回の東京都・大阪府の私立高校無償化政策は、中学受験をさせたい家庭にとって、私立中高一貫校の授業料が(総額として)半額になる、という効果があります。理論的には、補助金によって浮く高校の学費は、前倒しで中学受験対策に投じられる可能性が高いです。その支出は、最終的には、中学受験向けの学習塾に向かうでしょう。
誤解のないように申し上げると、私は、中学受験を否定しているわけでも、学習塾はよくないと言っているわけでもありません。また、「私立学校の無償化」に総論としては賛成です。私が20〜30年前のデータで計量分析を行った論文の結果では、低所得家庭に私立高校の学費を補助する施策は生徒の中退率を抑制させる効果がありました。ただ、それはすべて、私立にも高校からの入学枠があり、私立中学受験をせずに公立中学に進学した子どもにも、私立高校に進学する選択肢があることが前提です。
2024年度からの東京都・大阪府の施策において、「教育格差を本当に是正しよう」と思えば、私立中高一貫校の「高校からの入学枠」を維持させる政策とセットにしなければ、教育格差縮小への効果は薄いのではと思います。
最近の経済協力開発機構(OECD)のレポートでも、私立学校へ税金を投入する際には、入学選抜の際の公平性が不可欠であることが強調されています。
──そもそも、なぜ高校からの入学を廃止する私立学校が減っているのでしょう。
