- 経済協力開発機構(OECD)が公表した国際学習到達度調査(PISA)の2022年版で、前回2018年版と比べて「読解力」が15位から3位、「科学的応用力」が5位から2位に上昇した。
- 2003年調査で日本の順位が急落した際は「ゆとり教育」の影響が懸念されたが、元文部官僚でゆとり教育を推進した寺脇研氏は現在の状況を「ゆとり教育の成果」と評価する。
- 寺脇氏は、現在の政財界のリーダーは学歴社会を生きてきた人たちで、ゆとり世代が指導力を発揮する10年後にはいい時代が到来するとみる。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
「詰め込み」やめても世界トップクラス
──ゆとり教育が「成功した」と考える理由は。
寺脇研氏(以下、敬称略):一言で言えば、学力は落ちていないし、ゆとり教育の理念である「学ぼうとする力、意欲」が体現されてきているからです。
まず学力から説明しましょう。「ゆとり教育」とはそもそもマスコミ用語で、教育行政で変化が起きたのは1989年の学習指導要領改定。「知識の詰め込み重視」の教育から、「経験の重視」を掲げた生涯学習の実践にあります。バブル崩壊、グローバル化の進行などにより、「自分の頭で考えられる」人材をつくろうとしたのです。具体的には「学校週5日制」や総合的な学習の時間の実践などが挙げられます。
よく誤解されるのですが、「ゆとり」は子どもに楽をさせることを目指したのではありません。むしろ不確実な時代をサバイブできるよう、自分の頭で考え、仕事・生活を送れる「ゆとり」をつくろうとしたのです。知識を詰め込んでいい大学にさえ入ることができれば、人生を安泰に送ることができる、という時代が終わることは1980年代後半に目に見えていました。これからは自分の足で考え、他者と共生できる人材が必要だ、と判断したのです。
ゆとり教育は段階的に進められ、最終的に授業時間数が3割削減されたのは2002年度から。その時によく「授業時間が短くなることで学力が低下する」と言われたものですが、2012年度のPISA調査でも前回調査(2009年度)よりも高いスコアを記録しています。2012年度に高校1年生だった子どもは2003年に小学1年生で、「ゆとり世代」です。