子どもと接する時間が増える夏休み期間、イライラしてつい怒鳴ってしまうこともあるのではないでしょうか。
その「つい怒鳴ってしまった」ことが、子どもの将来にどのような影響を与えるのか。
今回は8月7日(水)にWEBメディア『シンクロナス』のLIVE配信に出演する犯罪心理学者・出口保行氏が、非行少年との対話や心理学の知識をもとに、親がつい言ってしまう言葉が、子どもにどんな影響を与えるのかを指摘したベストセラー『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』から、その一部を再構成し紹介する。(第2回/全2回)
罪状援助交際(虞犯)不特定多数の男性と性交渉し、合計約15万円を受け取った
ヒトミは中学3年生で、高校受験を控えていた。親からは「学費がかか
ってもいいから、偏差値の高い高校へ行きなさい」と言われている。両親
ともに高学歴で、勉強でも仕事でもよい成績をとることが将来の幸せにつ
ながるのだという価値観を持っていた。
ただ、子どもに対して過度な要求をすることは良くないと知っていたの
で、直接的に「ああしなさい」「こうしなさい」と言うことは控えていた。
そのかわり、ヒトミが幼い頃から、優秀な第三者を褒めることで目標を示そうとするのだった。
「ミサちゃんは幼稚園で描いた絵がコンクールで入賞したんだって」
「ケン君は、まだ小学校入学前なのに九九がスラスラ言えるんだって」
とりわけ母親はこんな調子で、聞こえよがしに話す。
育てれば、妹と弟もそれを目標にできるだろうと思っていたので、きょうだい3人の中では長女のヒトミに対する期待がいつも大きかった。しかし、幼いヒトミは自分に対するメッセージだとは気づかず「ミサちゃんもケン君もすごいんだな〜」と思うだけだった。
小学3年生のある日、ヒトミは学校から帰ってきて宿題をするために机
に向かった。夏の暑い日でプールの授業もあったため、疲れていたヒトミ
は机につっぷして寝てしまった。
「何度言ったらわかるの!」
突然の母親の叱責に飛び起きるヒトミ。何のことかさっぱりわからない。
「この間、お友だちのケイちゃんの話をしたよね。ケイちゃんはどんなに
疲れていても必ず宿題を済ませてからほかのことをするんだって。だから
あんなにちゃんとしているし、成績もいいんだって話したよね」
ヒトミはこのとき、「そういうことだったのか」と理解した。小さい頃
からあまり自分を褒めず、まわりの子ばかり褒めると感じていたが、まわりの子のようになれというメッセージだったのだ。
その後も母親はヒトミを暗に否定するような言動が多く、ヒトミは自信
を失っていった。親からの評価を気にするあまり、自分から目標を設定し
たり、目標に向けて努力をしたりすることができない。自分よりダメな人
間を探して、安心するようになっていった。
中学生になって塾に通うようになると、連絡用に携帯電話を与えられた。
そして、SNSにはじめて触れ、強く惹かれるようになった。自分のことを詳しく明かさなくても、人と交流ができるのだ。しかも、女子中学生だと言うと多くの男性にちやほやしてもらえる。悩みも聞いてもらえるし、褒めてもらえる。自分はこのままでいいんだ、ダメじゃないんだと思えることが嬉しかった。
ほどなく、大人の男性に誘われるまま実際に会うようになった。性的な
関係を持ってはお金をもらうヒトミ。
「私には価値があるんだ」
満足感に浸った。後ろめたさがなかったわけではない。しかし「付き合
ってほしいという男にお金をもらっているだけ」「体を求めてこない男だ
っているし」などと考えて売春ではないと思おうとした。が、男性の逮捕
をきっかけにヒトミの援助交際も発覚。少年鑑別所に収容されることとな
った。