SNSやニュースを通してスターの子ども時代や、ご両親の経歴を知ることが容易になりました。

 それらを目にして「自分とは才能が違いすぎる」と努力のむなしさを覚えた人も少なくないと思います。しかしこれは「遺伝」の誤解が生んだ先入観です。

 本来の「遺伝」とは親から子どもに伝わるものではないのです。

 では私たちは才能と努力をどう捉え、向き合っていけばいいのか。

 行動遺伝学者である安藤寿康氏が「遺伝」がわれわれの人生に与える影響について解説したコンテンツ(書籍『子どもにとって親ガチャとは』(シンクロナス新書))より「環境と遺伝」の関係を全三回でご紹介します。(第三回)

カエルの子はカエル、にまつわる様々な誤解

 遺伝にまつわる考え方には、多くの人が先入観にとらわれており、そのために生命を生み出す根幹となる「遺伝」に対して、適切に考えることができないでいると思われます。

 まず、「遺伝によって決まる」という決まり文句は先入観です。
同時に、そう言ってしまっては子育ても教育も意味がなくなってしまうということからよく主張される「生まれつきなんて関係ない」というのもまた先入観です。

 行動遺伝学の第一原則は「いかなる能力もパーソナリティも行動も遺伝の影響を受けている」という科学的事実です。

 ポイントは、「遺伝の影響を受けている」のであって、「遺伝によって決まっている」のではない、という点です。

 カエルの子はカエル、この親にしてこの子あり、と昔からよく言います。要するに親と子が同じものを持ってしまっている、という現象が遺伝と言われているものです。しかしこれも先入観です。

 多くの人が現在の自分について、親がああだから私はこうなってしまったというふうに、遺伝というものを、自分の内側から運命として生まれつき縛ってくるものとして受け止めがちです。自らがおかれている社会環境ということとは別に、そのように考えます。

 しかし、遺伝子は、子どもに直に伝わるものではありません。