2040年に2.4兆円市場、課題は寿命と安全性

 もっとも、ペロブスカイト太陽電池の実用化には、いくつかの課題も残されています。

 1つは寿命です。従来のシリコン系太陽電池の場合、寿命は20年程度とされてきました。しかし、ペロブスカイト太陽電池はせいぜい10年とされてきました。

 ペロブスカイト結晶には紫外線や赤外線で劣化してしまう欠点があるうえ、湿気に弱く、経年劣化によって電気への変換効率が悪化してくるためです。技術開発によって、これらのマイナスをどう改善していくかが大きな課題ですが、積水化学は耐用年数20年の製品を実用化する姿勢を打ち出すなど、各企業は懸命な努力を続けています。

 もう1つは安全性です。ペロブスカイトの原材料には「ヨウ化鉛」など、人体に悪影響を及ぼす物質も含まれています。このため、これらの物質を別の物質に置き換えることができないか、ペロブスカイトの研究で先行する京都大学などで研究が進んでいます。

 もっとも、ペロブスカイト太陽電池の本格的な実用化は、これからです。

 富士経済が2024年5月に発表したレポートによると、ペロブスカイト太陽電池の本格的な量産は2020年代後半になるとみられています。そして2040年には世界の市場規模が2兆4000億円になると試算。また、フォーチュン・ビジネス・インサイツの予測では、2023年に1億2029万ドルだった世界市場の規模は、2032年までに65億8336万ドルに達する見込みです。

 主要原料のヨウ素を国内で調達できる環境にあるとはいえ、中国や欧州の企業も次世代太陽電池に注目し、日進月歩の研究開発を続けています。果たして、日本勢はこの分野をリードできるのでしょうか。官民の力が問われています。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。