「オナニー」ではなく「セルフプレジャー」と呼ぶわけ

村瀬:男子校ということは特段意識しませんでした。どこの学校に行くにしても、事前に生徒たちにアンケートを採ってもらって、希望の多い順に3つのテーマに絞って話します。最後の30分で、それ以外のテーマについて、自分で学ぶヒントになるようなことだけ補足します。

おおた:開成では何を?

村瀬:開成では中学生を相手に話しました。「思春期とは何か?」「性的欲求への対応について」「恋愛や結婚について」がメインテーマでした。

 性的欲求の対応については、私はかなり重視しています。我慢する、ほかのことで紛らす、自分で解消、合意のもとで性交、の4つです。とりわけ私は自分で解消することに注目させます。約20年前に「セルフプレジャー」という言葉を知って日本で使い始めました。セルフプレジャーとは「セルフケア」です。「性行為」の本質の一つは「ケア行為」だと私は思っているんですよ。

「性教育」をテーマに教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏(左)と性教育の第一人者・村瀬幸浩氏(右)が語りあった

おおた:ケア、つまり、気にかけて、思いやること。

村瀬:自分の体と心を愛おしむ「自体愛」と、相手の体や気持ちを愛おしむ「相互愛」のそれぞれに意味があります。

おおた:自分の体と心をしっかりと愛おしむ経験は、相手の体や心をしっかり愛おしむ下地になりそうですね。

村瀬:ある中学校で、講義のあとに中学生が駆けてきて、ピースをしながら、「オナニーはいいことだって言ってくれた大人は初めてです」と言ってました。

おおた:安心するんでしょうね。

村瀬:女子大の津田塾で初めてセルフプレジャーの話をするときには迷いましたよ。セクハラだとか言われかねませんから。でも話してみたら、一つも苦情は来ませんでした。

 むしろレポートには、「すごく気持ちが楽になった」というコメントを、少なくない学生が書いてくれました。女性のセルフプレジャー経験を調べた世の中のアンケート結果はおかしいです。あんなに少ないはずがない。本当のことを書けない女性がたくさんいると思います。

おおた:女性が性的な主体であることを嫌う「男性中心の社会規範」による抑圧かもしれませんね。

村瀬:そう。性的同意という概念も認知が広がりましたが、いくら同意といっても主体がなければ同意のしようがありません。結局男のなすがままになってしまうか、拒否するかのどちらかしかなくなってしまいます。

おおた:たしかに!