ライドシェアドライバーも結局「ナカ」に行く

 新たな「規制緩和」によりタクシー不足を解消しようという「日本型ライドシェア」を導入してもタクシー業界が抱えてきた問題が即座に解消されるわけでない。

 現にドライバーが増えてもタクシーが捕まりにくいという現象が起きており、タクシーの需給環境に地域差が生まれているのが実状だ。東京都内を例に挙げると、冒頭に示したような週末、深夜の新宿はその典型である。ドライバー達に聞くと、乗車場所が混雑しやすい、短距離移動が多いなどの理由で嫌われる傾向にあるという。

 その一方で、サラリーマンが集まる新橋や赤坂、県を跨ぐことも珍しくない“上客”がいる深夜の六本木などの港区では流しのタクシーも捕まりやすい。そして、中心地から少し外れた住宅街エリアでは、総じて朝の時間帯で供給が足りていない。高齢者の生活の足の確保という観点からも、朝にタクシーをどう稼働させるかというのが深刻な課題となっている。

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 業界大手の日本交通に取材した際には、「世田谷区と目黒区の朝の供給が一番不足している」と聞いた。この発言を読み解くと、人口とタクシー会社の需給バランスが歪な地域があるということだろう。

 東京23区および武蔵野市、三鷹市のタクシー乗務員の推移を見ると、20年時点では約5万8000人を数えた。それがコロナの影響で22年の3月末時点で5万人を切るも、今年5月には約5万2000人まで回復している。

 それでも乗客視点では、曜日や時間帯によっては気軽にタクシーを利用できる状態に戻ったとまでは言い難い。訪日旅行客が急増し、旅客輸送の需要が高まったことも要因の1つだが、本質的には『歩合制で、個々が売上げを稼ぐために車を動かす』というタクシー業界の構造が影響している。台数が回復し、ライドシェアが動き出したとて、業界では「ナカ」と呼ばれる、中央区、千代田区、港区という中心地に車両が集まるという習性は変わらない。

 山田さん(仮名・50代)は、内装業の会社を経営しながら、4月8日の開始日から副業でライドシェアドライバーとして働き始めた。配車アプリの「GO」を利用し営業する中、業務効率化のために試行錯誤を重ねてきた山田さんにはある気付きがあった。

「中心地への移動が期待できる場所を選ぶこと、いかにロスなく繫ぎで移動できるか、ということを意識しています。私が中野在住のため、近場ではじめたい場合は中野区の東京警察病院あたりから。売り上げを立てたい日は、目黒や白金あたりまで車両を移動させるようにしています。より中心地へ向かいやすい場所というのがあり、これらを踏まえて、スタートするエリアは駅から少し離れた場所を重視しています」

ドライバーの実態を語る山田さん(筆者撮影)ドライバーの実態を語る山田さん(筆者撮影)

 こうした営業方法を確立してから、山田さんは早朝の4時間勤務で8、9組を輸送できるようになった。平均2万円以上を売り上げ、経費を差し引いた純利益で1日あたり1万2000円程度を継続して稼いでいるという。アプリ配車の性質上、ドライバーが向かいやすいエリアとそうでないエリアは明確だ、と山田さんが続ける。

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