「例えば同じ港区でも新橋はいい営業場所ですが、朝の六本木には行かない。客層が若く、極端な短距離が多い渋谷の中心部は避けたい、などの意識は生まれています。効率を考えると、拠点から遠い世田谷区や練馬区は取りにくいですし、台東区より“外”に行くこともほぼありません」

「住宅街の朝」の利用はより困難になっていく

 同じく配車アプリ「Uber」を使って営業しているライドシェアドライバーの高田さん(仮名・30代)も、やはり営業上好まないエリアがあると打ち明けた。

「管理するタクシー会社からは、(タクシーが不足しやすい)目黒区や世田谷区からスタートして欲しい、という要望はありましたが、強制ではなかった。自宅がある江東区からスタートし、ほぼ毎日中央区へと向かっている最中にアプリが鳴るイメージです。短時間で稼ぐことを考えると、どうしてもこのスタイルになる。江東区より東に行くことはほぼありませんし、中心部へ戻るのに時間がかかる世田谷区や、効率的ではない新宿や渋谷もできれば避けたいというのが本音です」

 さらに今後、顕在化しそうなのがタクシー事業所の問題だ。基本的にタクシー事業者は、多数のタクシーを駐車するのに広大な敷地を必要とするため、都の中心地には拠点を置きにくい。営業所レベルでは中心部にあるものも散見されるが、小規模となるため台数はおのずと少なくなる。世田谷区や目黒区もそんなエリアの1つだ。練馬区に本社を置くコンドルタクシーグループの岩田将克代表は、「今後ますますタクシー会社の郊外移転が進む」と断言する。

「業界全般的に社屋の老朽化が進んでおり、23区外への移転、事業所縮小の流れは止められないでしょう。そうなると、住宅街では朝のタクシー利用はより困難になっていく可能性が高い。実際、杉並区や中野区でも、事業者が武蔵野市や三鷹市へと移転となるようなケースも目立っている。これは維持コストを考えると避けられない流れです」

 岩田氏は、住宅街でのタクシー利用が困難になっている状況は複数の事象が絡みあっている、とも述べた。

「住宅街では学校が多く、通学エリアと重なるため、タクシーの営業時間に制限がかかる。環七の朝は、左側車線がバス専用になるため営業が難しい。また、この1、2年で利用者の動き方が遅くなり、以前のような朝7時台ではなく、9時頃から配車の電話が鳴り始めるようになった。隔日勤務の乗務員は割増料金がかかる深夜に営業したいため、彼らの仕事の上がり時間と配車が増加する時間帯が重なるようになってしまっている。なかでも環七の外側、細い路地が多いことで乗務員に嫌われる傾向がある世田谷区では、今後も劇的な改善は難しいでしょう」

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