都心の大型事業所が減少
板橋区に東京営業所を構える三和交通(本社・横浜市)も、同様の見解を示す。広報担当者によれば、同社は都内で稼働率(有料で走行している実働率)は99%を維持しているという。それでもタクシー事業の性質上、近年は営業エリアの「ドーナツ化現象」が起きやすく、おのずと地域差は生まれてしまう、と説明する。
「家賃や維持費の関係で、都心の大型事業所が減少し、朝の時間帯だと配車依頼場所に営業所からたどり着けないという現状はあります。シフトの調整で夜に出勤する人員を増やし、なるべく住宅地の朝の配車依頼に対応しようとはしていますが、逆にいえば、それくらいしか効果的な手段がありません。弊社の乗務社員の大半は、エリア的に川越街道からスタートし都心に移動するため、板橋区に戻ってくるようなケースは少ないですね」
「ナカ」と呼ばれる都心部のタクシー事情はどうだろうか。港区・赤坂に本社を置く「km」の愛称で知られる国際自動車の広報担当者は、「港区に拠点を置く意義は大きい」と強調する。
「創業の地である赤坂へ本社を置くのは、ブランディングの一環でもあり、ドライバーの採用対策という側面も強い。港区という利便性は遠方での研修を嫌う応募者も多いなか、明確な利点となる。求職者に刺さるポイントですね。実際に昨年度は1000人以上の採用に成功しました」
その上で、23区内で需給環境に地域差が生まれていることについてはこんな見解を示した。
「世田谷、目黒、新宿、渋谷のタクシーは、最近不足しているようにも言われていますが、実はもう数十年にわたり捕まりづらい地域です。このエリアは富裕層も多く、タクシーの需要が高い。仮に供給量が増えても、電車やバスに乗っている方々がタクシーにシフトするだけなので、タクシー不足は解消しない。また、各社がアプリ配車に注力していることで、流し営業が減っており、それが悪循環につながっているのかもしれません」
「頼れるのは我々自身しかいない」
都内でタクシーが捕まりにくい地域が長年、存在してきた中で「日本版ライドシェア」が導入されても自由競争はさらに進み、それが改善されるかは不透明だ。
国会では年末に向けて、ライドシェア新法の設立の議論が加速していく。ライドシェアの全面解禁に懐疑的な全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長は6月の総会で、「新法はできる。頼れるのは我々自身しかいない」と述べた。ワーキングプアの観点や安全面から一貫して反対の姿勢を崩さない川鍋氏は、全面解禁に向かう現状に危機感を強めている。近年で顕在化した東京での旅客輸送の地域差や、仮に自由化した際の都道府県レベルの地域格差が今後、一層際立つことも懸念される。
これらの課題にタクシー事業者はどう向き合うべきなのか。ライドシェアは効果的な打開策となりうるのか。改めて精査されるべき時勢を迎えている。
栗田シメイ
(くりたしめい) 1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、政治、海外情勢など幅広く取材。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上で取材を重ねている。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』がある。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・“永遠の総裁候補”石破茂の課題――「人望がない」以上に深刻な「政策がない」
・低迷する「カマラ・ハリス」はバイデン「アイデンティティ政治」失敗の象徴か
・「若い男性の3人に1人は、一度もガールフレンドがいたことがない。君もその一人か?」と語りかけるドイツ極右のTikTokが支持される理由