中国にある半導体メーカーの生産ライン(写真:CFoto/アフロ)中国にある半導体メーカーの生産ライン(写真:CFoto/アフロ)

チャイナ・イノベーションは、応用や社会実装に強みがある一方、基礎技術に弱点があった。米国などの制裁によって輸入できなくなった、死活的に重要な35のボトルネック技術について、中国は自主開発に舵を切った。その結果、15の技術はすでに技術封鎖を突破し、実現したと見られる。一方12の技術は依然として国外に依存しているのが現状だ。(JBpress)

※本稿は『チャイナ・イノベーションは死なない』(李智慧著、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです。

 これまでのチャイナ・イノベーションは、技術の巧みな応用や社会実装の早さに強みがあった。他方、基礎技術から生まれるイノベーションが少ないことが弱点だった。

 しかし、ここに無視できない事実を指摘しておきたい。過去に米国から制裁を受けた分野では、中国の自主開発に弾みがつき、技術封鎖を突破してきた事実だ。位置情報を管理する米国の「GPS(全地球測位システム)」を代替する衛星測位システム「北斗システム」や有人宇宙ステーションやロケットといった宇宙開発技術などがその例だ。

関連記事:【太陽光発電パネル】なぜ中国が短期間で世界市場を席巻したのか

基礎技術開発の困難さは半導体を見れば明らか

 中国では近年、“Hard & Core Technology”と定義される高度な基礎技術の開発に力を入れている。AI、航空宇宙、バイオ、半導体、高度情報技術(量子科学、ブロックチェーン、ビッグデータなど)、新素材、新エネルギー、スマートインダストリーの8分野だ。

 清科集団がまとめた2023年上半期の中国のエクイティ市場の動向分析からも、そのような傾向が読み取れる。半導体・電子機器、バイオテクノロジー・ヘルスケア、ITに投資が集中しており、この3つの分野だけで全体の62.4%を占め、2271件に上った。短期間で利益を回収できるネットビジネスから、半導体など長期間の投資が必要な業界に移っている。

 ただし、資金の投入だけでは、技術の突破に必ず結び付くとは限らない。基礎技術のブレークスルーがどれほど困難なことかを、半導体技術を例に見てみよう。

 先端半導体を製造するのに必要不可欠なのは、オランダのASML社製の極端紫外線(EUV)露光装置だ。現在、米国の制裁によって、この装置を輸入できない状態が続いている。

 この装置は、台湾のTSMCや米国のインテル、韓国のサムスン電子などサプライチェーン上の複数の企業との協業の下で、世界中の英知を結集して10年以上の歳月を費やして開発されたものだ。中国が初期開発段階に到達するのには、最低でも5年から10年は必要とみられている。

 数年前、ASML社CEOのピーター・ウェニンクは、同社の半導体製造装置は5000社以上のサプライヤーによって構成される世界的なエコシステム上で成り立っているため、「設計図を中国に渡しても、製造できない」と発言した。

 EUV露光装置で使用されているドイツ企業の光学モジュールだけを取り上げても、45万7329個の部品が含まれるといわれ、EUV露光装置の内部にある精密部品の数は10万個に達する。さらに驚くべきことに、EUV露光装置は半導体製造装置全体のほんの一部にすぎないことだ。最先端のファウンドリーには500種類以上の機械設備があり、製品ができるまでに1000以上の工程がある。

 ただ、興味深いのは、ピーター・ウェニンクが2022年5月、「物理法則は世界中どこでも同じだ。中国が開発できない理由はない」と、当初の発言を修正していることだ。

 2023年3月に訪中した後、ウェニンクは「中国が独自のフォトリソグラフィ装置を開発することは、世界の半導体産業チェーンを破壊し、ASMLの市場シェアを脅かす」と発言した。発言の真意は不明だが、米国の制裁下で中国の半導体産業が成長していることを肌で感じたのかもしれない。

 十分な資金と技術者を投入すれば、半導体企業は技術的課題を解決できると考える向きもあるが、半導体製造はそう簡単ではない。米科学技術政策局のジェイソン・マシーニー元副局長は、「それは、人類文明全体をゼロから再構築することになると言えるからだ」と語っている。

 この困難な課題をファーウェイはどのように克服しているのだろう。世界から注目される中、ファーウェイからの発表は一切ない。米国のさらなる制裁に神経をとがらせているのだと思われる。2024年4月にファーウェイが発表したスマートフォン「Pura 70」シリーズに、7ナノ半導体チップの「キリン 9010」が搭載されている。しかも、このチップは、「Mate 60 Pro」に採用された「キリン 9000S」とコア構成が一部変更される製品であり、制裁下でも製造が継続可能と間接的に証明された。

 いずれにしても、中国は今後も基礎技術におけるボトルネックの解消に全力を挙げるだろう。

35の重要基礎技術、どれを実現できたか?

 従来、中国は民生用技術分野では国際分業という発想から応用技術分野で急成長を遂げてきたが、米国の技術輸出規制を受けて、高度な基礎技術の自主開発に舵を切った。しかし、基礎技術の開発には数十年の積み重ねが必要であり、短期間で成果を出すことは難しく、まず置き換え可能な領域から徐々に着手しているようだ。

 米国など先進国の制裁によって輸入できなくなった中国にとって死活的に重要な35のボトルネック技術のうち、どの程度まで解消できたのだろうか(次ページの表)。