まるでカルト集団の教祖

 イグナトヴァの出身地で、2014年にワンコインが創設されたブルガリアでは、同じく6月26日、検事総長が被疑者不在のままイグナトヴァを起訴すると発表した。これにより、騙し取った巨額の金で不法に購入した不動産の没収が開始されるという。

 BBCによると、イグナトヴァはブルガリアの首都ソフィアや、黒海のリゾート地に数百万ドル単位の不動産を買い漁ったり、ヨットを購入したりと、ワンコイン被害者から荒稼ぎした金で派手に散財していた。ブルガリア当局によれば、イグナトヴァの国内での資産は1000万ドルとされている。また、イグナトヴァが国籍を有するドイツでも、詐欺罪で刑事告発されている。

 イグナトヴァは自身が設立した「ワンコイン」は、ビットコインに次ぐ革命的な暗号資産であり、すぐにライバルである先駆者を抹殺する「ビットコインキラー」だと豪語していた。しかし人々が希望を託して投資してしまった「ワンコイン」は、実際には古典的なねずみ講の手法を用いた詐欺商法であった。約束された利益はおろか、投資した金も戻ってこなかった。

「ワンコイン」創設から1年半あまり経った2016年、イグナトヴァは英ロンドンのウェンブリー・スタジアムで大規模なイベントを開催した。投資家など数千人の観客を集め、火柱の上がる派手な演出や爆音と共にステージに姿を現した。

ロンドンのウェンブリー・スタジアムでのイベントの様子(出所:FBI

 ロックコンサートさながらの熱狂ぶりを見せる客を前に「2年後にはビットコインなど、誰も話題にしなくなるだろう」と煽った。そのイグナトヴァの姿は、まるでカルト集団の教祖さながらであった。

 ワンコインに多額の投資をしてしまった、ある英国人の女性は英ジャーナリストの取材に対し、投資後はワンコインの「ファミリー」として歓迎されたと話している。スコットランド出身のジェニファー・マクアダムさんは、自身が父の遺産をつぎ込んだばかりでなく、友人らにもワンコインを勧めてしまった。

 彼女の友人・知人らの投資額は、総額で25万ポンドにもなった。当時、マクアダムさんはワンコインによる「批判的な層はアンチ」だとの主張を鵜呑みにしてしまっていた。ワンコインの危険性を警告する専門家の声には耳も貸さず、攻撃的な言葉を返してしまったこともあった。