「なだしお」にも「相手が回避するのが当然」という意識があったのかもしれない。当初に海上幕僚長が「潜水艦に過失はない」と発言したのもその表れだろう。この発言はさらに世論の反発を招き、後にその発言は撤回された。

自衛隊に雫石衝突事故のトラウマ

 事故の後、海上自衛隊のチャーター船が犠牲者の遺族を乗せて現場に向かった。遺族の真っ赤に泣きはらした目、自衛官への刺すような目線、怒号、虚脱。

 しかし、とにかく自衛隊は過失を認めたくはなかった。過去には1971年7月に岩手県雫石町上空で全日空の旅客機と航空自衛隊の訓練機が空中衝突し搭乗者162名が犠牲になるという大事故が起き、自衛隊は大バッシングを受けたという経緯がある。自衛隊の過失で民間人の命を奪ったということだけは避けたかったのだろう。

最後の行方不明だった女性の遺骨を抱いた父親と家族(写真:橋本 昇)
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 だが、事故の原因究明が進められる中で海上自衛隊による航海日誌の改ざんなどの証拠隠滅行為が明らかになると、「なだしお」側の非は認めざるを得ないものとなった。