窓口廃止で混乱に拍車をかけた「インバウンドの復活」

 JR東日本は、2025年度までに首都圏で231駅から70駅程度、地方では209駅から70駅程度までみどりの窓口を削減するとの目標を示していた。

 みどりの窓口がなくなれば、使い勝手が悪くなる。そんな不安を払拭するため、同社は2020年からはカメラとマイクを駆使してオペレーターが遠隔対応する「話せる指定席券売機」の導入を進めていた。みどりの窓口をなくしても、その機能を代替できるシステムを導入することでサービスに支障が出ることはないと踏んでいたようだ。

 しかし、その思惑とは異なる状況が発生する。コロナ禍で大幅に減少していた訪日外国人観光客数の回復が想定以上に早かったことだった。

 2023年の訪日外国人観光客数は、約2506万人まで戻ってきている。これはコロナ禍前の約8割の水準にあたる。一気に円安が進行した2024年は、さらに外国人観光客が増加する傾向にある。

 外国人観光客が複雑なきっぷの仕組みを熟知して自力で購入できるなら、みどりの窓口がなくても問題は起きない。しかし、IC乗車券やモバイルSuicaなどを使って、列車を駆使する外国人観光客の姿は想像しにくい。

 きっぷの購入だけなら、まだ何とかなったかもしれない。みどりの窓口は発券だけではなく、使用前の乗車券などを払い戻す業務も担当している。これら払い戻しも話せる指定席券売機で扱っているが、操作にまごつく人も続出したという。

 減る有人窓口、増える訪日外国人観光客──。この状況が同時に進行すれば、混乱が起きるのも自然な成り行きと言える。

 また、外国人観光客や高齢者だけではなく、通学定期券・通勤定期を購入しようとする中学・高校の新入生や新社会人なども慣れない機械の操作に時間を要してしまったことだろう。

混雑する「みどりの窓口」混雑する「みどりの窓口」(JR新宿駅、写真:共同通信社)

 そもそも従来のみどりの窓口だったら、ひとつの窓口に1人の職員が配置されていたが、話せる指定席券売機は遠隔でオペレーターが利用者とやり取りするシステムのため、1人の窓口担当者が複数の利用者を同時に対応しなければならない。当然ながら、利用者を待たせる時間が発生し、混雑時には待ち時間が長くなる。そのため、話せる指定席券売機の前には長蛇の列ができてしまい、それが利用者に不満を抱かせることにつながった。

 外国人観光客への対策として、JR東日本のみならず、大手の鉄道会社で多言語が表示できる券売機を導入しているが、そうした券売機が増えても、外国人たちは対面式の有人窓口を利用しようと考える。それは異国の地を旅する者にとって自然な心理でもある。これらの要因が重なり、JR東日本に怒りの矛先が向けられた。