“稼ぐ場所”へと姿を変えつつある「みどりの窓口」

 みどりの窓口の削減は、JR東日本が取り組む経営合理化の一環であることは言うまでもない。しかも、単に経費を削減するだけにとどまらない。それまでみどりの窓口だった場所が空きスペースになることで、飲食店やポップアップストアとして活用され、“稼ぐ場所”へと姿を変えることができる。

 例えばJR京浜東北線の王子駅は、字面が「玉子(たまご)」に似ていることから、「幻の卵屋さん」を期間限定で出店して人気を集めた。このように、みどりの窓口を廃止することはJR東日本にとって経費削減と同時に賃貸収入という副収入も期待できる。

「幻の卵屋さん」京浜東北線の王子駅にポップアップストアとしてお目見えした「幻の卵屋さん」(2024年2月筆者撮影)

 今回、みどりの窓口の廃止が問題化したのは、今年5月初旬。コロナが収束し、GWの旅行需要が高まったタイミングで起きていることを考えると拙速だったと言える。しかし、だからと言ってJR東日本が今後もみどりの窓口を維持していくのかと問われれば、残念ながら答えは「NO」だろう。

 それを如実に示したのが、7月1日にJR東日本が100パーセント出資のJR東日本不動産を設立することを発表したことだった。

 JR東日本は国鉄の資産を引き継ぎ、その有効活用を図ってきた。国鉄から引き継いだ社有地は簿価で2兆円超とも推定され、それらの大部分は車両基地や変電所、駅として使用されていた。そうした鉄道関連施設は時代とともに統合・廃止などの効率化を進め、多くの土地は遊休不動産になっていた。

 また、高架化などを進めたことによって、線路の下に余剰スペースが生み出される。それらを有効活用することを見込み、1989年に不動産の開発・管理・運営を手掛けるJR東日本都市開発という子会社を立ち上げている。

商業施設「SEEK BASE」商業施設「SEEK BASE」は、JR東日本の不動産事業を手がけるJR東日本都市開発が秋葉原─御徒町駅間の高架下を有効活用する目的で2019年にオープン(2019年12月筆者撮影)

 同社はそれらを商業施設やオフィスとして賃料を稼げる不動産へと転換する事業を担っているわけだが、このほど設立が発表されたJR東日本不動産も目的は同じだ。

 そのほかJR東日本は2005年にオフィスビル等の貸付業を主業務とするJR東日本ビルディングを設立しているほか、2021年には不動産ファンドビジネスに特化したJR東日本不動産投資顧問も立ち上げている。

 不動産に関連する子会社・系列会社を多く抱えていることからも、JR東日本の不動産事業に対する意気込みが感じられる。そして、みどりの窓口を廃止して生まれた空きスペースは、次々と賃貸されていくことになる。

 今回の一件は、以前からJR東日本が進めてきた“脱鉄道依存”のビジネスモデルを象徴させる出来事だったと言えるだろう。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。