あえてひとりでカラオケに行く生活者の中に、「自分の歌う曲があまり人と合わないのではないか」と思っている人がいたとしても、同じ年齢層の人はもちろん、異なる性別や年齢層の人とも、一緒に盛り上がることができる可能性があることを今回のデータは示しています。

誰かとハモれると楽しい?

 ちなみに、ひとりカラオケのような「ひとりで好きな曲に没入する」という行動とは逆に、「同じ曲が好きな人同士で一緒に楽しむための行動」も生まれています。

 次に挙げるグラフは、動画共有サイトでタイトルに「ハモリチャレンジ」を含んで投稿された動画とその視聴回数を視覚化したものです。

「ハモリチャレンジ」動画は、動画投稿者が歌っている曲のハモリを、視聴者が一緒に歌うことにチャレンジするものです。まず動画投稿者がハモリの手本を歌います。次に視聴者は、動画投稿者が歌う旋律に合わせて、主旋律やハモリパートを歌います。つられずにうまく歌えると、視聴者は達成感を得ることができます。


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 そんな「ハモリチャレンジ」動画は、ご覧のように、2021年以前はほとんど存在していなかったのが、2022年後半から急増していることがわかります。ピーク時の2022年12月(12月はカラオケのハイシーズンでもあります)には、1カ月に202本もの動画が投稿されています。2023年夏以降はいったん落ち着きますが、2024年に入って再び増えてきているようです。

 ちなみにこの中で最も視聴されている動画は、先程10代女性と40代男性の共通歌唱曲としても登場したポルノグラフィティさん「サウダージ」の、サビを取り上げたハモリチャレンジ動画でした。

 ひとりカラオケではなくグループでカラオケに行った際、歌いたい曲が被ってしまったとしても、「ハモリチャレンジ」でハモリパートを歌い込んでおけば、曲の取り合いにならず一緒に楽しめるということもありそうです。

「ひとり」だからこそ新しい仲間に出会える

 前述の研究「ひとりマグマ」での発見の中にも、能動的にひとりで行動することの効用として、「『ひとり』だからこそ新しい仲間に出会える」というものがありました。家族や友人、同僚と一緒に行動していては出会えなかったような、新しい仲間に出会えるチャンスが生まれるということです。

 今回分析対象とした、ひとりカラオケユーザーの方々も、「ひとり」で好きな曲を歌い込むことに励みつつ、曲を通じて新たなカラオケ仲間と出会える可能性があるのかもしれません。

 本分析では、ひとりカラオケという、定義上、外部からはみることができない行動を、データを通じて視覚化してみました。そこからは想像を超える回数で同じ曲を歌っていたりする生活者の熱量や、性別や年齢層を超えて共通して歌われる曲の存在が浮かび上がってきました。「ひとり」での行動は、カラオケに限らず、キャンプやフェス参加、ホテルステイなど、様々な生活領域で行われるようになっています。普段はみえにくい「ひとり」での行動も、じっくり観察してみると、意外な市場の可能性が広がっているのかもしれません。

「同じ曲を何度も歌う傾向」に関する前編はこちら。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/81733

伊藤耕太
(いとうこうた) いとう・こうた 博報堂生活総合研究所 上席研究員。社会科学やプログラミング言語、データ可視化を用いて生活者研究に取り込む。2002年博報堂入社、国内外の企業や自治体のマーケティング/ブランド戦略の立案や未来洞察、イノベーション推進の支援に携わりながら、企業向けの研修講師や中高生向けキャリア教育プログラム講師を担当。2021年より現職。 ACCマーケティングエフェクティブネス部門メダリスト(2016年)。講師を務めた博報堂の中高生向けキャリア教育プログラム「H-CAMP」が2017年経済産業省キャリア教育アワードの最優秀賞・大賞を受賞。また論文『デジタリアンは縄文土器の夢を見る−生命情報からデータエスノグラフィーへ』で日本広告業協会懸賞論文2018年銀賞受賞(通算4度目の受賞)。2019年から同審査員。 関西大学 総合情報学部 非常勤講師(2008年〜)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科MBAコース等でゲスト講師も務める。

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