24時間無痛分娩と計画無痛分娩の違い

 24時間無痛分娩は、麻酔を担当する医師が常駐するなど分娩の場に近く、妊婦が陣痛を感じてからタイミングをはかって硬膜外麻酔を施すものだ。陣痛が自然に起こることで、スムーズに分娩に移ることができて、分娩に伴って起こる痛みを麻酔薬によって軽くする処置がきめ細やかに行われることになる。理想的な無痛分娩とされる。

 一方で、日本で一般的なのは計画無痛分娩だ。麻酔を担当する医師が平日や日中の決まった日時に分娩の場におり、そのタイミングに合わせて分娩誘発による人工的な陣痛を誘導し、それと合わせて硬膜外麻酔をかける方法となる。

 ただ、自然な陣痛が起こる前であるため陣痛がうまく起こらないなどのトラブルにつながることがあり、分娩が長引いたり、赤ちゃんを吸引したり器具を使ったりして結果として母子の安全性にとってはネガティブな影響を及ぼすこともあり得る。

 24時間無痛分娩の方が、人手をかける必要がある。ブランド病院をはじめ、24時間無痛分娩に対応するところはあるが、麻酔科医が配置されていなければ対応は難しい。

 このように産科に麻酔科医を適切に関与させることが求められるのは、無痛分娩が事故と隣り合わせであることが大きい。無痛分娩費用の助成が実現した場合には、産科医や麻酔科医がどのように関与するかを決定する必要がある。

 その結果、どのような体制を良しとするにせよ、無痛分娩の受け入れ体制が不十分にならざるを得ない状況になり、その後の事故が増えていくことになったとしたならば、それは残念なことだ。

無痛分娩に関連したヒヤリハット。日本産婦人科医会医療安全部会 2017年9月10日無痛分娩に関連したヒヤリハット。日本産婦人科医会医療安全部会 2017年9月10日
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 日本産婦人科医会の資料では、無痛分娩実施施設491施設のうち11%に当たる56施設で、何らかのトラブルである「ヒヤリハット」事例が報告されていた。17年時点よりも医療のレベルは向上した可能性もあるが、事故防止に手を抜くことはできない。

 無痛分娩の安全と、麻酔科医のコストを天秤にかけた時、軍配が上がるのは安全の確保だろう。

 ある医療関係者は、「無痛分娩費用の助成が実現すると、それは公定価格になってくるので、無痛分娩の費用水準が低下するのではと心配している。その水準が低ければ、麻酔科医の配置などの医療体制を整えることが難しくなるかもしれない」と述べる。

 公定価格になると医療の裾野が広がる一方で、単価が下がることが多い。医療関連の助成金や保険診療の医療費にも同じことが言えるが、無痛分娩でも同様の課題を抱えることになる。無痛分娩費用の助成と無痛分娩のためにかかる追加費用は相互に関連している。

 安全が担保されないままに無痛分娩が広がれば、無痛分娩費用の助成で実現したかった妊婦および生まれてくる子の健康は脅かされ、本末転倒だ。女性のQOL向上につながるはずのプランが画餅に終わる可能性もある。無痛分娩を希望する妊婦にとっては期待外れに終わってしまうことになる。

 一方で、所得が上がらない状況や財源が限られる中で、やみくもの助成金を積むことも難しい。これは大きなハードルとなり、根本的に発想を転換する必要がある。結局、無痛分娩費用の助成を考えていくと、産科全体の再構築まで考えざるを得なくなると考える。

 無痛分娩の話が出てくると、メディアなどでは「日本も海外のように無痛分娩を取り入れるべきだ」という意見がよく語られるが、海外の状況に対する理解が果たしてその解釈で正しいかは筆者には疑問がある。この問題は、無痛分娩を導入するか否かというよりも、「手術としてもとらえられる分娩に麻酔科医を伴わせるべきだ」という考え方に切り替えてはどうだろうか。