- 企業をはじめ社会のさまざまな場面で進む生成AIの活用。最近では、選挙に立候補するAIまで登場している。
- 大量の情報を取り込み、分析するAIは住民の意思を集約するという面では適任だが、政治家には倫理に基づいて判断し、社会を導くという責任も負っている。
- 政治の世界でどこまでAIが活用されるかは、政治家が自分たちの存在意義をどこまで発揮できるかにかかっている。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
英国で立候補した「AIスティーブ」
7月4日、英国で総選挙が行われる。ウクライナやガザなど国際情勢が緊迫する中、同国の行方を占うことになる重要な選挙だが、ある1人の候補が注目を集めている。その名は「AIスティーブ」――文字通り、AI(人工知能)の政治家だ。
といっても、ロボットか何かが立候補しているわけではない。AIスティーブは英国のブライトンに住むスティーブン・エンダコットという名の実業家が立ち上げたAIだ。
エンダコットはAIスティーブの代理という立場を取っており、当選した場合には彼が議会に出席することになるが、エンダコットは有権者からAIスティーブに対して送られてくるフィードバックに基づいて行動すると宣言しており、あくまでAIスティーブの主導で政治活動を行うという姿勢だ。
ちなみに、エンダコットは「スマーターUK」という政党を立ち上げようとしていたが間に合わず、AIスティーブは無所属での出馬となっている。
実はエンダコットは、Neural VoiceというAI音声合成の企業で会長を務めている。AIスティーブを開発したのも同社だ。うがった見方をすれば、AIスティーブが選挙に勝利しようがしまいがNeural Voiceにとっては格好の宣伝となるため(実際にこうやって日本でも記事のネタにしようという人物が現れているのだから)、エンダコットは勝敗を気にしていないのかもしれない。
ただ、エンダコットとNeural Voiceによれば、AIスティーブは一度に最大1万人との会話を行うことができ、またそうした有権者との会話を分析して、政策課題を提示することが可能とのこと。
さらに、抽出された政策課題はメールを通じて「検証者」(地元のボランティア)から評価され、一定の評価を集めた課題のみがAIスティーブ(正確に言えば議会に出席するエンダコット)の追求するポリシーとして採用されるそうだ。
WIRED誌の報道によれば、AIスティーブは既に稼働を始めており、これまで得られたフィードバックからは、人々は「パレスチナでの紛争と、ゴミ収集などの地域の問題」に関心を寄せていたという。
この仕組みであれば、有権者が自宅から24時間365日、国会議員に直接コンタクトできるようになる。それによって民主主義が改革されるだろう、というのがエンダコットの主張だ。
ただ、彼は英インディペンデント紙の取材に対し、「難しいのは、多くの人々がスカイネット(映画『ターミネーター』シリーズに登場する、人類に敵対するAI)を想像してしまうこと」として、政治にAIを使うというアプローチに反発が起きることも予想している(インディペンデントの記事)。
一方の米国では、ワイオミング州シャイアンに住むビクター・ミラーという人物が、同市の市長選をめぐって起こした行動が物議を醸している。