交通事故の被害者を保護、救済することを目的に組織された「自賠責保険・共済紛争処理機構」が、約10年前から「違法」ともいえる運用で被害者に不利益を与えていたことが発覚した。それに気づき、裁判まで起こして是正させた札幌の青野渉弁護士に、この1年の闘いと、損保業界の変わらぬ払い渋り体質について、自賠責保険問題の追及を続けるジャーナリスト・柳原三佳が聞いた。
場合によっては賠償金に数千万円の差が
柳原三佳(以下、柳原) ビッグモーターによる保険金不正請求問題、保険のカルテル問題など、昨年から損保会社が絡んださまざまな不祥事が表面化し、大問題となっています。そんな中、青野先生はこの1年あまり、損保会社が深く関与しているある組織との闘いを続けてこられたそうですね。
青野渉弁護士(以下、青野) はい。損保業界が出資して設立された「一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構(通称/紛争処理機構)」が、ここ数年、交通事故の被害者が提出する新証拠の受付を拒否していたことが発覚し、驚きと怒りをおぼえました。まさに「違法」ともとれるめちゃくちゃな運用でした。
柳原 後遺障害の等級に納得できない被害者は多数おられますが、適正な認定が受けられないとなれば深刻ですね。
青野 そうなんです。交通事故で障害を負った場合、【自賠責への被害者請求】→【異議申立】→【紛争処理機構への申請】というのはごく一般的な手続きの流れです。例えば、「7級の高次脳機能障害が認められるか?」という争点であれば、非該当か否かで、数千万円単位の賠償金が受け取れるかどうかに直結します。
柳原 ビッグモーターで問題になったのは1件当たり数十万円の「クルマ」の修理代でしたが、不正の対象が「被害者=人」で、さらに賠償額に数千万円の差が出るとなると、本人だけでなく家族の人生にも影響を及ぼしますので、とても深刻ですね。
青野 おっしゃる通りです。