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 交通事故の被害者を保護、救済することを目的に組織された「自賠責保険・共済紛争処理機構」が、約10年前から「違法」ともいえる運用で被害者に不利益を与えていたことが発覚した。それに気づき、裁判まで起こして是正させた札幌の青野渉弁護士に、この1年の闘いと、損保業界の変わらぬ払い渋り体質について、自賠責保険問題の追及を続けるジャーナリスト・柳原三佳が聞いた。

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いつの間にか失われていた設立当初の理念

柳原 紛争処理機構と言えば、交通事故の被害者を保護、救済するために作られた組織です。にもかかわらず、法を無視し、被害者が再審査すらしてもらえず不利益を被っていたとすれば大問題ですね。

青野 おっしゃるとおりです。紛争処理機構は、2001(平成13)年、自賠法(自動車損害賠償保障法)の改正にともなって設立されました。

 そのきっかけのひとつとなったのは、柳原さんが『週刊朝日』(朝日新聞社)で連載された記事でした。「被害者救済のために作られた自賠責保険なのに、その査定が加害者(損保会社)寄りで、証拠が精査されておらず、被害者にとって不利な運用がなされている」という告発は、当時、社会問題化され、結果的に法改正までこぎつけました。

 その意味で私は、紛争処理機構の“生みの親”は、柳原さんだと思っています。国土交通省に宛てた「行政処分の求め」にも、そのことを明記しました。

柳原 そのように言ってくださり、恐縮です。

 私が「こんな自賠責保険ならいらない」という告発ルポを『週刊朝日』に連載したのは1997年のことでした。一連の記事が出てまもなく、当時の運輸省(現・国土交通省)が自賠責の査定方法を改善するよう通達を出し、その後、わずか3年で自賠法の改正につながっていったときは自分でも驚きました。