岸田さんが「太鼓持ち」に似ている理由

 俗に「野だいこ」と呼ばれている一八ですが、幇間芸という宴席や座敷などで踊りや唄や三味線などを披露するれっきとした芸を持つような存在ではありません。要するにプロではないのです。

「若旦那」などの目先の小銭を持っている人の懐に入り込み、機嫌を取って、その日一日の糊口をしのぐような存在です。

 つまり、小金持ちの象徴たる「若旦那」に取り入る形で落語に頻繁に登場するのが太鼓持ちなのです。

 若旦那が「暑いな」というとそれに同調するように「暑いですね、真夏のようですよ」と言い、若旦那が「でも涼しくなってきたな」というと「いやあ、風も出て来ましたね」。「腹が減ったな」というと「私も腹ペコなんですよ」と合わせ、若旦那が「ああ、さっきそういえば蕎麦を食べたんだ」と逆らうと、「いや、私も実は蕎麦を食べて来たんですよ」などのように、相手に沿う形の言動を展開し続けます。

 そして、おおむね一八が損をしてオチになるというかわいそうな結末が待っています。

 基本若旦那に「むちゃ振り」される悲哀がおかしく展開されてゆく格好であります。

 落語『山号寺号』では、若旦那に威張って「金竜山浅草寺、高野山金剛峰寺、比叡山延暦寺とどこでも山号寺号はあるんですよ」と言ったばかりに

「じゃあお前、ここは上野の広小路だ。ここでも探せ!」

「いや、それは無理です。お寺に限ってのことです」

「お前どこにもあると言っただろ。探せ!山号寺号があったら祝儀をやる」

 とむちゃ振りされ、苦しまぎれに「車屋さん、広小路」とやったのを皮切りに「時計屋さん、いま三時」「肉屋さん、ソーセージ」などなど機転をきかして稼いでいくのですが、最後は若旦那にそのご祝儀を取られてしまいます。

「たいこ腹」にいたっては若旦那が素人レベルの「鍼(ハリ)」を覚えた実験台となり、お腹に鍼を打たれ血だらけになったりしてしまいます。

 そして、時節柄夏の名作落語でいうならば、『うなぎの幇間』があります。

 あらすじは……