落語『うなぎの幇間』に登場する一八のペーソス

■『うなぎの幇間』のあらすじ

 ある夏の日、一八(いっぱち)がタダ飯にありつこうとしますがなかなかうまくいきません。まさに一八、いちかばちかと、むこうからやってくる会ったことのない男に取り入ろうとくわだてます。

 調子よく「旦那!しばらくぶりです、その節は……」と言い寄っていくと、どうやら相手は自分を知っている感じの手応えを覚えて、内心ほくそ笑みながら取り巻くことにします。

 男は一八を近くのうなぎ屋へと誘うのですが、路地裏にあるため閑古鳥が鳴いており、店のおやじも傍若無人な感じです。

 2階の座敷でかば焼きを肴(さかな)に酒を飲みながら、一八は男がどこの誰だったか思いだそうとしてあれこれ探りをいれるのですが、男は調子よくはぐらかします。

 そしてその男はうなぎを食べ終わると便所へ行くと言って席を立ったきり戻ってこなくなります。じれた一八が便所をのぞくと誰もいません。

 一八は、「きっと自分に気をつかわせないよう先に勘定を済ませて帰ったんだ。やったあ、なんて粋な旦那だろう、自分も運が向いてきた」と喜ぶのですが、そこに店の者が勘定を取りに来たのでびっくりします。

 なんと連れの男は「座敷に残っているのが旦那で、自分は旦那のお供だ、勘定は旦那からもらってくれ」と店の者にウソを言って先に帰ってしまったのでした。だまされたのは一八だったのです。

 ここから一八が逆切れし始め、店のうなぎをはじめさんざん悪態をついて渋々金を払って帰ろうとします。さらには勘定が異様に高いことに触れると、「お連れさんがお土産を5人前包んで持って帰りました」とのこと。

 泣きそうな一八が金を払って帰ろうとすると今度は下駄がないことに気づきます。店の者が「それはお連れさんが履いていかれました」 。

 一八のペーソス(哀愁)が伝わる名作であります。