生成AIの活用で開発者のスキルは低下する?

 2024年5月27日、警視庁が川崎市内に住む25歳の男性を逮捕した(この人物は別の詐欺罪で逮捕されており、正確には再逮捕となる)。容疑は「生成AIを使ってランサムウェアを開発した」というもの。日本国内において、この容疑で逮捕者が出るのは初となる。

 この男性にはIT企業への就職など、目立った開発経験は確認されなかった。「生成AIによって、知識の乏しい人でもサイバー攻撃の道具を開発できてしまう」という世の中が現実のものになりつつあることが示された格好だ。

 その一方で、別の懸念も示されるようになっている。それは「生成AIに頼り過ぎることで、人間の開発者のスキルが低下するのではないか?」というものだ。

 たとえば、筆者は先ほど、ChatGPTを使って素数判定のプログラムを一瞬のうちに完成させたが、もし私がIT企業に就職したばかりの新人で、こうした簡単な機能を開発するタスクを任されていたのだとしよう(上司が私にコーディングスキルを身に付けさせるために、意図的にそうした学習効果のあるタスクを回してくれていたのかもしれない)。

 その場合、このタスクはPythonの基礎的な知識を身に付ける絶好の機会になるはずだったのに、ChatGPTに頼ることで失われてしまったことになる。その後、似たような機能を開発する際にも、どうして良いかわからずにChatGPTを頼ることだろう。それを繰り返せば、得られるはずのスキルが得られなくなってしまう。

 この種の議論は、過去のイノベーションに対して繰り返し行われてきた。「計算機を使うと計算能力が低くなるから、学校で生徒が使うのを認めるな」といった具合だ。

 面白いことに、古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「文字を使うと記憶力が弱くなる」と主張したことが弟子のプラトンによって記されている。いま人間が持っている力が失われるのではないかという懸念は、新しい技術が登場したときに必ず示されるものだと言える。

 では、実際のところどうなのか。それを実験によって示した研究者たちがいる。