(4)頼清徳氏の「新二国論」

 頼清徳氏は就任演説の中で次のように主張した。

(出典:ダイアモンド・オンライン「『むき出しの警戒心』に中国が猛反発、台湾有事の緊張感を高めた新総統の演説とは?」2024.5.28)

①「中国に呼び掛けたい。台湾への言葉による攻撃、武力による威嚇を停止し、台湾と共に世界的責任を果たし、台湾海峡と地域の平和と安定の維持に尽力し、世界を戦争の恐怖から解放すべきだ」

②「中国が、中華民国が存在する事実を正視し、台湾人民の選択を尊重することを望む」

③「中国の主張をすべて受け入れ、(台湾が)主権を放棄したとしても、中国が台湾を併合する企みは消えない」

④「中華民国憲法によれば、中華民国の主権は国民全体に属する。中華民国の国籍を有する者が、中華民国の国民だ。その意味で、中華民国と中華人民共和国は相互に隷属しない」

 頼清徳氏の演説には、中国に対する警戒心が色濃くにじみ出ているが、特に最後の④の文言は非常に強いものである。

 蔡英文前総統が2021年の国慶節演説で語っており、民進党指導部として目新しい発言ではないが、就任演説という最も権威ある場でそれを口にした意味は重い。

(5)筆者コメント

 前述したが、李登輝の「二国論」は米中の双方から強く非難された。

 米クリントン政権は、中台両国に特使を送って事態鎮静化を図った。
ところが、今回、頼清徳の「新二国論」は米政府からは歓迎された。

 なぜか。

 現在は米中新冷戦時代と言われように米中は対立関係にある。米政府は中国に気を使う必要がない。

 筆者は、以前の記事「一触即発の台湾海峡、危機勃発の全シナリオ」(2020年12月17日)」の中で、台湾海峡危機が発生した場合、米国は必ず軍事介入する、と書いた。

 しかし、ドナルド・トランプ前大統領は台湾にあまり関心がないとのメディア情報もあり、「もしトラ」が懸念されたが、2024年5月14日に、トランプ前米大統領と会談したオーストラリアのスコット・モリソン前首相が、中国がインド太平洋における安全保障上最大の「脅威」であり、台湾有事を最も警戒すべきだとの認識で一致したと明らかにした(出典:読売オンライン2024年5月18日)。

 これで、一安心である。

 台湾有事を防止しているのは米国の台湾防衛コミットメントである。

 マイケル・マコール米下院外交委員長(共和党)が率いる超党派の議員団が5月26〜30日の日程で台湾を訪問した。

 27日、マコール氏は台湾の頼清徳総統と会談後、記者団に、台湾への兵器システム納入が間近に迫っていると発言。

 中国軍が先週、台湾周辺で実施した「威嚇的な」軍事演習は台湾の抑止力強化の必要性を示していると述べた(出典:ロイター紙2024年5月27日)。