「ビジネスモデルは形を変えていくもの」

 本屋になる最初の一歩を限りなく低くすることで、中西は「本に関わる人」を増やそうとしている。実際、棚主の中には、移住先で知り合いを増やしたいからと、シェア型書店を始めた人もいる。

 思えば、シェア型書店、棚貸し書店とは、中西が働いていた楽天の楽天市場やメルカリのようなサービスにも似ている。個人同士が売買できる小さな本屋の集合体であるところがプラットフォームのようだ。

 ずっとインターネットビジネスで生きてきた中西から見ると、今の書店や本のビジネスはどう見えるのだろう。

「ビジネスは時代によって形を変える必要があるのに、本の世界は変化させていくのが難しいと聞きます。僕も楽天で働き始めた20代には、なぜ証券会社を買うのか、なぜサッカークラブを経営するのか、わからなかった。でも、インターネット企業で育っていくと、ビジネスモデルは形を変えていくものという当たり前が身についているんです」

「退学論文」など個人発行の冊子も扱う

 そう話す中西が例として挙げたのが、例えば東京・世田谷区にある週に1、2日しか営業していないデザイン事務所の一角にある書店 や、コワーキングスペースの一角にあるシェア型書店。販路が広がると、また本の形にも様々な可能性が広がるのではないかという。

「本は本屋だけでなく、いろんな場所で買えた方がいい。そうなれば別のジャンルのプレーヤーを呼び込み、本の世界はもっと面白くなっていくと思います」

 今、力を入れているのが、個人や少人数の有志が発行する自主的な冊子「ZINE」のイベントだ。手元にあるZINEを見せてもらうと、ホットドッグに対する想いをまとめた「HOTDOG STOCK」や、退学までの経緯を綴った「退学論文」、「“什器”が読めなかった私がディスプレイのために準備したこと」など超ニッチなテーマだが、その偏愛、こだわりが詰まっている。

ZINEの数々。それぞれの作り手の偏愛ぶりが詰まっている