深刻な出版不況に突入した2000年代。ジャーナリストの故・佐野眞一は、2001年に刊行された『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)で出版不況の構造的な問題について言及した。その後も、本を巡る状況は厳しくなる一方だ。それでもさまざまな形で思いのある本を届ける挑戦は、日本各地で起こっている。大手チェーンとは異なる品揃えや営業スタイルで勝負する独立系書店を営む挑戦者たちは、今の本を取り巻く状況をどのように見ているのだろうか。今回は、2021年に名古屋市に誕生した独立系書店「TOUTEN BOOKSTORE」を訪ねた。(本文は敬称略)
(浜田 敬子:ジャーナリスト)
書店や本の充実度が、得られる情報の格差につながる
前回の記事(「ヘイト本は絶対に売らない」、小屋から始めた独立系書店オーナーのこだわり)で紹介した関口竜平(30)が千葉市に独立系書店「lighthouse幕張支店」を開業した2021年、名古屋市にも1軒の独立系書店が誕生している。
TOUTEN BOOKSTORE(以下、TOUTEN)。オーナーは古賀詩穂子(32)。近くにはファミリー層向けの大型マンションもある住宅地の、古い2階建の長屋の一角にあり、2階はギャラリー兼カフェになっている。
古賀が名古屋市に本屋を開いたのは、「本屋は街に必要な存在だ」と強く思っているからだ。開店にあたって挑戦したクラウドファンディングには、「ふらっと立ち寄ることができて、店内をウロウロしているうちに自然と気持ちよくなれる場所になりたい」と書いた。
もう一つ心の中にあったのが、書店や本の充実度が、得られる情報の格差につながるという思いだった。就活で東京に行った時に歩いた神保町やお茶の水で、書店の多さと並んでいた本の多様さに驚いた経験がある。
入社2年目に「これは自分で本屋を開くしかない」
愛知県で生まれ育った古賀は、2014年に新卒で出版取次大手の日販に入社している。入社後、配属された名古屋支店では書店営業を担当した。当時は担当するチェーン書店の出店ラッシュだった。名古屋近郊でショッピングモールがオープンすると、中には決まって書店が併設される時代だった。古賀の主な仕事は出店する書店の開業支援で、1年間で何軒もの開業に関わったという。
取次の仕事は本に関わる点では面白かったが、迷うことは多かったという。注文しても欲しい本が入らない時には、書店と出版社の板挟みになった。効率性ばかりが求められる書店の現場にも遭遇し、こう考えるようになった。
「おかしいと思ったことがあっても、自分1人の力ではとても変えることができないということもよくわかったんです。入社2年目で、これは自分で本屋を開くしかないと思うようになっていました」