外交面で注目されるのが北朝鮮であるのに対し、内政ではやはり政治とカネの問題にどうけじめをつけるのかに注目が集まっている。後半国会の一番の焦点は政治資金規正法改正だ。

 5月6日にフランス、ブラジル、パラグアイへの外遊から帰った岸田は動いた。羽田からそのまま総理公邸に入ると、政治資金規正法改正の自民党案の作成に携わる実務者と会談した。

岸田「政治資金規正法の改正については、きのう実務者と会い、自公協議は幹事長のもとで、今週中にも取りまとめを行うよう協議加速を指示した」(5月7日)

 立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主の野党4党は、「使途が不透明」とされてきた議員に渡される政策活動費の開示、企業・団体献金の禁止、「連座制」強化の3点を求めている。これに対して自民党は、政策活動費について公開する方針を示しているが、その公開の方法については項目ごとに金額を表示する方式を主張するなど「完全公開」に後ろ向きで、企業・団体献金の廃止に至っては拒否する構えを崩していない。

 世論は自民党の政治資金規正法改正に取り組む姿勢について「本当に(裏金事件を)反省しているのか」などと厳しい。与野党協議を巡って自民党内からはこんな見方が出ている。

自民関係者「岸田さんが幹事長をとりまとめ窓口に指名したのはある意味当然ではあるが、茂木さんにとっては迷惑な話だろう」

 つまり岸田は、島根の補選を小渕優子選対委員長らに任せて、自分は党内の若手と飲み会を頻繁に行い総裁選に向けた準備に余念のない茂木に、誰が見ても損な役回りを押しつけてパワーダウンを狙おうというのだ。

自民関係者「この国会の最終盤は政治資金規正法改正をどうするかに集中する。おそらく野党側は(企業・団体献金廃止など)高めのボールを投げてくるだろうから、自民党はどうしても逆風に苛まれる。野党との折衝に苦しむ茂木さんを尻目に、岸田さんが野党の言い分を呑むことだってありうる」

 常套手段化している岸田総理の“たった1人の決断”が与野党協議でも行われ、野党側の言い分の多くを呑んだ上で法改正を成果に解散に踏み切ることも、可能性としてゼロではないとこの自民関係者は警戒感を強める。

 そして今月、岸田の解散戦略の行方を占う選挙がある。

大臣経験者「岸田にとって静岡県知事選挙は重要になってくるだろう」

 今月9日(木)に告示された静岡県の知事選挙。自民党は元総務官僚で元静岡県副知事の大村慎一を推薦し、立憲民主党と国民民主党が推薦する前の浜松市長・鈴木康友と与野党対決を行うことになった。

 前出の与党の大臣経験者はこの選挙の持つ意味について次のように説明する。

大臣経験者「補選では確かに負けたが、ちょっとした弾みで流れは変わる。静岡(知事選)はいい勝負になるかもしれない。もし自民の候補が勝利した場合、岸田は“いま解散すれば与党で過半数は十分確保できる”と判断するかもしれない」

 静岡知事選の投開票は26日(日)。そこで自民の推薦候補が立憲、国民の推薦候補に勝てば、「解散できる環境」と岸田が判断することは十分考えられる。

 自民党関係者によれば、静岡には地元選出の国会議員で「ポスト岸田」の1人とにわかに注目を集めている上川陽子外務大臣などが応援に入る準備を進めている。

 訪朝、政治資金規正法改正、そして静岡県知事選――。外交・内政・選挙と異なる分野の課題に取り組みつつ、岸田はどういった解散戦略をひねり出そうとしているのか。

(敬称略)

永田象山
(ながたしょうざん) 政治ジャーナリスト

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