投票日2日前の26日(金)午後。自民党本部は突如、慌ただしい空気に包まれた。岸田が選挙戦最終日の27日(土)に自民候補の錦織を応援するため「島根入りしたい」と言い出したのだ。すでにこの時点で自民党は島根の負けを覚悟していた。その島根に1度ならず2度も現職の総理が入って負けたら(岸田は21日にも島根入りしている)「岸田が負けた」という印象が強くなることから、党幹部の多くは島根入りには反対だった。

本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら

 また総理が応援に入るとなれば、演説会場に党員や地元関係者の動員をかけなければならない。地元警察も警備体制を厳重に組む。去年4月の補選では岸田が和歌山に応援に入った際、20代の男が殺傷能力のある爆発物を投下する襲撃事件が発生したことから、警察も警備体制を強化している。岸田の“思いつき”ともとれる島根行きに多くの人が振り回される格好となった。

自民関係者「岸田さんの性格はまさに今回の島根行きが物語っている。周りが反対しても自分が“こうだ”と思えば実行する。派閥の解消の時と同じ。だから解散だってわからない」

「北朝鮮訪問だってやりかねない」

 そもそもなぜ岸田が解散にこだわるのか改めて整理してみたい。

 岸田は9月に自民党総裁任期を迎える。つまり総裁選挙を行わなければならない。一方、衆議院議員の任期は来年の10月であるから、もし岸田がこの通常国会(会期末は6月23日)の会期中に解散を決断しなければ、総裁選挙後に解散総選挙の見通しが一気に強まる。

 その場合、総裁選で候補者に一番求められるのは「総選挙に勝てる候補」ということになる。保守王国島根に2度も応援に入ったにもかかわらず、結果は立憲の候補に約2万5000票の差をつけられ大敗した岸田に、多くの所属議員・党員がそっぽを向くのは必至だ。

与党関係者「岸田さんは座して死を待つようなことはしない。きっと局面打開を図ってくるだろう。場合によったら北朝鮮訪問だってやりかねない」

 去年3月、岸田はヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うためウクライナへの極秘訪問を敢行し、支持率を回復させた。今回も岸田がかねてから意欲を示す北朝鮮訪問など、世間の耳目を集めるサプライズを演出する可能性もあり得るというのだ。

 外務省幹部は、複数の拉致被害者の帰還など目に見える成果の目算が立たない限り、岸田の電撃訪朝は「あり得ない」と完全否定している。しかし、岸田本人は「日朝間の諸懸案を解決し、ともに新しい時代を切り開いていく観点からの私の決意を先方に伝え続けていきたい」と、訪朝=金正恩総書記との首脳会談への意欲を繰り返しアピール。周辺も「総理は本気。訪朝についてはいろいろ(水面下で)動いている」と思わせぶりだ。

 岸田は今月下旬にソウルで日本・中国・韓国の首脳会談(日中韓サミット)への参加を予定している。その前後に訪朝に向けた動きが表面化するのではと、政界は岸田の動きを注視している。

幹事長に汚れ役を押し付け、独断で野党と妥協も?

与党幹部「総理は(政治資金規正法の)改正案をやり遂げるだろう」

◎新潮社フォーサイトの関連記事
マルクスとレーニンの肖像画が復活、「日本首相の岸田」は呼び捨てに逆戻り
中国とロシアに見るデジタル影響工作の生態系
トルコ統一地方選の敗北は「オスマン帝国再興」を夢見たエルドアンの限界か