(英エコノミスト誌 2024年4月27日号)

インフレ率の高止まりを受けて米国の金利は簡単には下がりそうもない(写真は3月20日、米連邦準備制度理事会=FRBのジェローム・パウエル議長会見、FRBのサイトより)

とりわけ重要なのは、トランプと中国の激しい衝突の再現の舞台が整うことだ。

 米ドルが無敵の強さを見せている。

 米国経済の成長が力強さを保ち、米連邦準備理事会(FRB)が利下げに転じるという市場の観測が後退すると、投資資金が米国市場に流れ込み、ドル相場が急騰した。

 主要通貨の対ドルレートを貿易規模で加重平均した指数では、ドルは今年に入って4%上昇した。

 ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見る限り、さらにドル高が進みそうだ。

 大統領選挙を控え、民主・共和両党が米国製造業の振興に本腰を入れていることから、世界は今、ドル高地政学の新時代に突入する瀬戸際にある。

ドルの独歩高

 この状況をさらに難しくしているのが、ドル高が他国の弱さを反映していることだ。

 2023年末には、米国経済は2019年末時点より8%大きくなっていた。同じ時期の英国、フランス、ドイツ、日本の成長率は2%にも満たなかった。

 日本円は対ドルで34年ぶりの安値をつけている。ユーロは今年年初の1ユーロ=1.10ドルから1.07ドルに下落した(図1参照)。

 来年の年初までにはユーロがドルとのパリティ(等価)に達すると見るトレーダーもいるほどだ。

図1

 従って、もし11月の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利したら、戦いに向けた準備が整うことになる。

 ドル高は米国から輸出される製品の価格を引き上げ、米国に輸入される製品の価格を引き下げることが多く、なかなか減らない貿易赤字――トランプ氏が何十年も前から苦にしている問題――を拡大させる。

 ニュースサイトの「ポリティコ」によれば、トランプ政権下で中国への追加関税措置を設計したロバート・ライトハイザー氏はドル安を望んでいる。

 ジョー・バイデン現大統領は為替レートについて公式発言をしていないが、ドル高は大統領の製造業振興策を推進しにくくする。