2010年12月には、チュニジアで民主化を求める運動「ジャスミン革命」が起こり、それは、他のアラブ諸国にも広がり、「アラブの春」となった。

 シリアでも、40年にわたるアサド家の独裁に対する国民の不満が爆発し、2011年に抗議運動が起こった。シーア派の政権によって虐げられてきたスンニ派の人々が中心になり、次第に武装化、過激化していき、反政府組織の「自由シリア軍」を結成した。これに対して、アサド政権側は、ロシアやイランの支援を受けて対抗し、内戦となった。

 これにISも介入したため、内戦が泥沼化し、大量の難民が発生した。国外に避難した人は660万人、国内で避難生活を送る人は670万人と、第二次大戦後、最悪の難民となった。

 2015年9月30日、ロシアは、アサド政権の要請に応える形で、ISを退治するという大義名分を掲げて、9月30日に空爆を開始した。

 米軍は、2019年10月にはシリア北東部から撤退してシリアから実質的に手を引き、ロシアはアサド政権を継続させることに成功した。

 今回のコンサートホールでテロを行ったISがロシアに恨みを抱く背景には、以上のような事情がある。

ヨーロッパでは極右が台頭

 移民問題は、ヨーロッパの最大の政治問題となっている。移民排斥を掲げる極右政党が支持を伸ばしている。

 昨年11月には、オランダの総選挙で移民排斥を訴える極右の自由党(PVV)が第一党となった。

 ドイツでは、移民排斥を掲げる極右政党、「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いを増している。昨年6月にはチューリンゲン州のゾンネベルク郡でドイツ初のAfDの郡長が生まれるなど、地方政治でも影響力を拡大している。そして、最近の地方選挙では、AfDは第2党に躍進している。

 イタリアでは、移民・難民問題への不満から、2022年10月にネオファシストのジョルジャ・メローニ政権が誕生している。

 フランスでも、移民排斥をうたう極右の国民連合(RN)が勢力を拡大しており、2017年、2022年の大統領選挙ではリーダーのマリーヌ・ルペンが決選投票に残り、マクロンと戦っている。2027年の大統領選挙では当選する可能性が高くなっている。

 フィンランドでは、移民制限を主張するフィンランド人民党が昨年4月の総選挙で第2党となり、政権に参画した。

 深刻な移民問題にまだ直面していない日本も、欧米先進国を他山の石としなければならない時期が来ることを想定していたほうがよい。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

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