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「121」「79000」――これらの数字が何を表すか分かるだろうか。それぞれ「中国の100万人以上の都市数」「日本の100歳以上の高齢者数」である。人口学者のポール・モーランド氏は、出生率、都市化、高齢者の増加といった、人口動態に関する10のテーマから、世界の歴史と現在を解説し、未来の予測を試みている。そこからは、人口増加が必ずしも経済発展につながらないことや、高齢化が紛争解消に役立っていることなど、意外な事実が浮き彫りになる。本連載では、同氏の『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』(ポール・モーランド著/橘明美訳/NHK出版)から内容の一部を抜粋・再編集、人口動態が今後の世界をどう変えていくかという論考を紹介する。

 第1回は、人口動態が世界の歴史とどう関係してきたかを解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 英国のEU離脱、ソ連崩壊、トランプ大統領誕生・・・人口動態が及ぼす影響とは (本稿)
■第2回 日本の幸福度は先進国の中で最低、遠因となった「低出生率の罠」とは?(5月10日公開)
■第3回 イギリスで調査、上位10%の高所得者と貧困層の平均寿命は何歳違うか?(5月17日公開)
■第4回 トランプ、サッチャーらの言動が映し出す「アイデンティティ」の複雑さとは?(5月24日公開)
■第5回 日本、イギリス、イスラエルが抱える人口動態の「トリレンマ」とは?(5月31日公開)

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今日の人々を作り上げた人口動態

人口は未来を語る』(NHK出版)

 今日(こんにち)のわたしたちを作り上げてきたのは、歴史上の人口動態の大きなうねりである。そのうねりは今このときもわたしたちを巻き込み、過去を形成したのと同じように現在と未来を形成しようとしている。

 ヨーロッパが世界を植民地化して支配し、19世紀末に揺るぎない地位を誇ったのは、ヨーロッパ大陸の人口急増とそれに伴う人口流出があってのことだった。20世紀にアメリカ合衆国とソビエト連邦が超大国になったのも、ヨーロッパのライバル国をしのぐほどの人口急増があってのことだった。同様に、中国も10数億の人口がなければ、アメリカの競争相手となって世界の覇権を争うことにはならなかっただろうし、インドも人口が10億を超えていなければ、来たるべき大国と見なされてはいないだろう。

 歴史上の発展が人口動態と無縁ではないように、歴史上の衰退も人口動態と切り離して語ることはできない。ロシアがソビエト連邦内での優位性を失い、ついには連邦崩壊を招いたのも、人口変動と少なからぬ関係がある。

 日本も1990年代の人口が、その100年前に列強の仲間入りをしたときのように若者が多く、活力に満ち、増加傾向にあったなら、今日「日没の国」と見なされることはなかっただろう。だが現実の日本はすでに20世紀末の時点で、人口減少と景気低迷に苦しむ高齢化の国になっていた。またイラクからイエメン、リビアにいたる地域の大部分は、もしここに経済的苦境から抜け出せない若者があふれていなければ、政治的混乱に陥ってはいなかっただろう。