「121」「79000」――これらの数字が何を表すか分かるだろうか。それぞれ「中国の100万人以上の都市数」「日本の100歳以上の高齢者数」である。人口学者のポール・モーランド氏は、出生率、都市化、高齢者の増加といった、人口動態に関する10のテーマから、世界の歴史と現在を解説し、未来の予測を試みている。そこからは、人口増加が必ずしも経済発展につながらないことや、高齢化が紛争解消に役立っていることなど、意外な事実が浮き彫りになる。本連載では、同氏の『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』(ポール・モーランド著/橘明美訳/NHK出版)から内容の一部を抜粋・再編集、人口動態が今後の世界をどう変えていくかという論考を紹介する。
第2回は、世界全体の人口動態が「日本化」する可能性について論じる。
<連載ラインアップ>
■第1回 英国のEU離脱、ソ連崩壊、トランプ大統領誕生・・・人口動態が及ぼす影響とは
■第2回 日本の幸福度は先進国の中で最低、遠因となった「低出生率の罠」とは?(本稿)
■第3回 イギリスで調査、上位10%の高所得者と貧困層の平均寿命は何歳違うか?
■第4回 トランプ、サッチャーらの言動が映し出す「アイデンティティ」の複雑さとは?
■第5回 日本、イギリス、イスラエルが抱える人口動態の「トリレンマ」とは?
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世界の出生率がどうなろうとも、世界人口は人口慣性によって当面のあいだ減速しながらも増えつづける。しかしながらわたしたちは、スウェーデンの統計学者ハンス・ロスリングが「ピーク・チャイルド」と呼んだ、世界の子供の数が増えなくなる瞬間にすでに達している[39]。
今世紀末には、地球上の人口は今よりもおそらく50パーセント増えていることになりそうだが、5歳未満の人口は5000万人以上減っていると思われる[40]。
[39] Rosling, Hans, TED Talks: https://www.ted.com/talks/hans_rosling_religions_ and_babies/transcript (2018年12月21日閲覧).
[40] UN Population Division 2017 Revisions (出生中位推計).(国連人口部の「世界人口推計、2017年改訂版」)
出生率は人口変動のもっとも重要な原動力である。理論的には出生率に下限はないのだから、ひょっとするといつの日か、シンガポールの今の出生率でさえずいぶん高かったと思う日が来ないとも限らない。わたしたちはこの世界には出生率の高い文化や社会というものが存在していて、それはずっと変わらないと考えがちだが、たいていは思い込みにすぎない。
インドの合計特殊出生率はずっと高く、ごく最近になってようやく人口置換水準を切るかどうかというところまで下がってきたのだが、地域別に見ると1.7前後まで下がっている州がいくつもあり、今後インド全体がそれらの州に続く可能性もある。こうした出生率の低下は、貧しい国々が経済発展よりはるかに速いペースで人口動態の近代化の道を歩んでいることを示している。
インドの出生率低下は中国より遅く始まり、かつなだらかに推移した。その結果、いまやインドが中国を追い抜いて世界一の人口大国になろうとしている〔2023年6月に追い抜いたと思われる 〕。
中国は今世紀末までに現在の人口の約4分の1を失うと考えられ、労働力減少が懸念されているが、インド経済のほうは堅調を維持している。インドの人口動態が今後も中国より健全であれば、過去数十年でライバルにつけられた差を取り返すチャンスが到来する。中国の経済規模は1980年にはインドの1.5倍強だったが、2016年には4~5倍になっていた[41]。だがこの関係は、主としてインドの労働力増加により、今後逆転する可能性がある。
[41] Statistics Times, 12 September 2015: http://statisticstimes.com/economy/ china-vs-india-gdp.php (2019年4月10日閲覧).