エイジング・クロックの必要性

 健康寿命の知識を追究しているのが、「老年医学」です。アメリカでは「ジェロントロジー(Gerontology)」と呼ばれていて、わかりやすくいえば高齢化を科学する学問、具体的には高齢者が健康でいるための在り方を研究します。

 一方、私が日々携わっているのは、「老化研究」です。この領域では、細胞内の分子の動きなどを探究し、サイエンスの力で健康寿命を延ばそうと考えています。老年医学と老化研究、漢字で記せば「老」が同じ。中身も一見似ているようですが、老化に対するアプローチが異なる、というわけです。

 その老化研究は今、とてつもない勢いで世界的に加速しています。その背景には二つの大きな変化があります。

(図:『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)より)
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 一つめは、ビッグデータの力です。ご存じのように現代は、ヒトのさまざまなデータを、とんでもない量で、しかも精密に収集できるようになりました。それこそ細胞内の分子レベルの変化までも追跡可能です。

 二つめは、そうやって収集したビッグデータを解析するAIの力。そのレベルは、日に日に進化しています。たとえば、ChatGPT3が3.5にバージョンアップし、さらにChatGPT4が出るまでに、どれだけの時間が必要だったでしょうか。この超短時間での生成AIのとてつもない進化を活用すれば、あるいは生成AIの今後のさらなる進化も計算に入れるなら、これまで想像もしなかった知見を得られる可能性が高い。

 その成果として私たち老化研究者が目指しているのが、「エイジング・クロック(Aging Clock)」の確立、すなわち生物学的年齢の測定です。

 さまざまなバイオマーカー(血圧や心拍数、血液中のタンパク質の量など)を測定して解析すれば、ヒトの生物学的年齢がわかるはず。その先には加齢性疾患の予測と予防が見えてくる。ゆえに統合的なエイジング・クロックを確立すれば、いずれは健康寿命も科学の力で延ばせるようになる、と考えています。