老化の治療は意識から
たとえばシンクレア博士は、『LIFESPAN』で次のように書いています。50歳で肺がんと診断された、自身の母親についての記述です。
1つ指摘しておきたいのは、母が肺がんと診断される前から(それをいうなら最初のがん細胞が肺で無秩序に増殖しだす前から)、すでに老化は始まっていたということだ。もちろんそれは母に限ることではない。老化のプロセスは、人が気づくよりずっと前から始動している。遺伝病や不治の病(やまい)で不幸にも若くして命を落とすケースは別として、たいていの人は高齢者特有とされる症状が積み重なるよりかなり前から、老化の影響の少なくとも一部を感じるようになる。分子のレベルで見ると、まだ外見も気分も若いうちから老化のプロセスがスタートすることが多い。(『LIFESPAN』梶山あゆみ訳/東洋経済新報社/2020年)
彼の母親は、大好きだったタバコをやめて肺の一つを切除することで、その後70歳まで生きたといいます。シンクレア氏はここで、「喫煙が老化の時計を速く進ませ、非喫煙者より早く死亡するリスクを高めるのはわかっている」「一方、老化はどうか。老化もまた死亡の確率を高めることが明らかになっているのに、私たちはそれを避けて通れないものとして受け入れている」と、鋭く指摘しています。
いかがでしょうか。
老化を必然とするか、しないか。
老化も致死の病根だとみなすかみなさないか。
後者を選択することで、人間は寿命を延ばすことができる。言い換えれば、身体に関する知識と意識で、人間は健康寿命を引き延ばすことができるのです。
実際アメリカでは、健康な高齢者と不健康な高齢者を分けるのは「教育」だといわれています。もちろん、これはアメリカに限った話ではありません。ヨーロッパでも同様です。OECD(経済協力開発機構)加盟23カ国において、学歴と性別に基づく寿命の違いを調べた研究がありますが、この結果によれば、高学歴者と低学歴者の平均余命の差は、25歳時点で男性が8年、女性が5年、65歳時点で男性が3.5年、女性が2.5年であることが示されました。
要するに、健康も知識次第。それなりの知識があれば、望み通りの健康を保ちながら歳を重ねていける、ということです。