老衰の壁は越えられる?

 現代に戻りましょう。

 歳を取ると、いずれ身体は弱り衰えるもの。

 これが「老衰」と呼ばれる現象であり、老衰の壁は誰にも越えられない。たとえどんなに健康でも、いずれ老衰で生涯の幕は閉じられる。誰もがそう思っているはずです。

 しかし、この壁はどこまで確かなものでしょうか。

(図:『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)より)
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 たとえばそれは、日本人の平均寿命がこの100年ほどでどれだけ延びたか調べてみるだけでも見えてきます。そう、決して強固な壁ではないのです。

 日本は世界でも最高レベルの長寿国です。厚生労働省のデータによれば、2022(令和4)年の時点で、男性の平均寿命は81. 05歳、女性は87.09歳でした(厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より)。

 この平均寿命が、70年ほど前の1955年にはどうであったか。見れば、男性が63.60歳、女性は67.75歳です。つまり日本人の平均寿命は、この70年ぐらいで20年ほども延びているのです(厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書―令和時代の社会保障と働き方を考える―平均寿命の推移」より)。

 もっとも平均寿命が延びた理由の一つに、乳児死亡率の大幅な低下があります。ですから、単純にヒトの寿命が延びたわけではありません。ですが、こうして70年間に20年近く延びたのなら、1年平均では20÷70=0.28(約100日)ほど延びたことになります。この調子で寿命が延びていけば、現在40 歳の人の平均寿命が90歳を超える日も、そう遠くはないかもしれません。

 しかも、30年前の60歳と今の60歳とを比べてみれば、現代の60歳のほうが平均的に若々しく見えるといっていいでしょう。明らかに、“老化が鈍化”しています。少なくとも、人々の健康への意識と行動が、この変化に寄与していることは間違いありません。いわば、後天的な要因が寿命の延びに影響しているということです。