オルガズムとは何か

 米国の心理学者、アブラハム・ハロルド・マズロー(1908-1970)は、「女らしさ」とは、しっとりとして遠慮がち、献身的で恭順、神への信仰が篤い、変化を好まず保守的、羞恥心に包まれた高い品格、と定義する。

 オーストリアの精神分析家で精神科医、ヴィルヘルム・ライヒ(1897-1957)は、人は性的本能と外界に対して自己を防衛するために、性格の鎧を纏うと指摘した。

 例えば、昔の一部の上流階級の女性は性行為への積極性は「恥ずべきこと」と教えられ、性交の最中につい快感から喘ぎ声を発することは、「端たないこと」という観念が培われる。

 そのため、健全な恋愛における性的な場面にさしかかろうとなれば、自然と緊張や不安から足を閉じて頑なに拒絶してしまう女性もいるだろう。

 パリ万国博覧会(1900年)が開催された頃、ヨーロッパの酒場では、「騎乗位は家付き娘の特権で、養子は下で青息吐息」という歌が流行っていたという。

 ライヒは「自我の中にこそ、その人の性的なものはすべて含まれる」とし、「抑制された価値観と固まった筋肉の鎧から逃れるには、リビドー(性的衝動)の完全な放出であるオルガズムの享受が肝要であり、性行為における性的解放は、瞬時に全身にやすらぎと愛情、そして満足を誘い、高揚と調和するものでなければならない」と言った。

 また、「自己をあるがままに精神の健康を保持するにはオルガズムに左右される」と主張する。

 オルガズムとは、ただ男性器が女性器に挿入されることによって起こることではなく、抱き合うこと自体で生じるものでもない。

 それは行為者自身のスピリチュアルな自己全体という意識の拡張による体験にある、というのだ。

 ライヒは性的欲望をめぐる精神分析の理論をマルクス主義と統合することで、「性の解放」は社会や文化の変革を目指す革命思想として位置づけた。

 フリーセックスの風潮が広まった1960年代、意識や恐怖、拘束や警戒心に捉われることのない、「性の解放」という思想は大衆的人気を得て、セクシュアル・レボリューションとして世界中の多くの人に支持された。