融解する地方を試金石に解散を打とうとしている岸田文雄

 調査する側として心に刺さるのは、「ま、俺ももう年金生活だから、文句も言えねえんだけどよ」「世間さまに怒っても、死ぬときは一人だから」「楽ではないけど、毎日が楽しいからそれでいい」という、ありのままの言葉ですね。

 人として、成熟しているなあと思うんですよ。

「死ぬまでに、石破茂さんが総理大臣になるのを見たかった」という人もいれば、「政治に関わっていいことはないし、政治のニュースはどれも腹が立つから見ないようにしている」という人もいる中で、政治家を選ぶ有権者の心理ってのはどうなっているのか、やっぱりよく考えるべきなんじゃないのかなあと。

 それでも、地元の政治家を評価するときは、「子どもの数が減って、各小学校が集まって地域の大運動会になったとき、挨拶に来てくれて、最後はテントを畳むのを手伝ってから帰った」「車で買い物に行くとき、街頭の交差点でのぼりを立てて手袋して手を振ってくれた」など、日頃、住民と向き合う政治家としての人間性に触れたかどうかというエピソードばかりであります。

 そこには、政党も政策もあまり関係なく、人間を見抜こうとする有権者の心にあるんじゃないのかと思うんですよね。

衆院解散の”条件”になりつつある島根1区。融解する地方を試金石に解散を打つかどうか悩んでる俺たちの岸田文雄ってどうなの?(写真:TASS/アフロ)衆院解散の”条件”になりつつある島根1区の風景。融解する地方を試金石に解散を打つかどうか悩んでる俺たちの岸田文雄ってどうなの?(写真:TASS/アフロ)

 振り返ると、島根で地方組織が駄目になっている政党がなぜ出るのかと言えば、地方政治の荒廃に加えて、地方議員や地方公務員として地域を担う人材が減少しており、暮らしと向き合い、票を確保できる手段が喪失しているという面はあるんじゃないのかと思います。

 都市部では地域での人間関係が希薄で地方組織が崩壊していくのに対して、地方ではそもそも人がいなくて地方組織が成立しなくなっていく側面はあるのだろうと。

 そういう人口減少の最前線で、融解する地方社会を試金石に解散を打つかどうか悩んでる俺たちの岸田文雄。まあ確かに9月の総裁選まで引っ張ると総裁再選は確実じゃないので、負けてもいいから「6月解散・7月投開票」にして政権を長続きさせたいという気持ちは痛いほど分かるんですよ。

 ただ、現場はとにかくこんな感じなので、そういう有権者の淡い、でも確実な不安を置き去りにして政治に向き合うのも大変だと思います。

 何より、うっかり低支持率で解散しちゃうと71議席どころではない与党敗北や、何となれば菅義偉さんとかが担がれて離党なんてのも起きるとダルいと感じますので、解散やめましょうよ。島根1区の結果次第ですが、負けても解散ってのはキツいと思いますよ。

 思い返せば、去年も6月13日に解散するのしないので相当すったもんだしましたが、あのころより、いまのほうがはるかに状況悪いと思うんですよね。どうしたもんですかね。ねえ。

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山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
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