(2)現行日米安保条約の相互防衛条約への改定

 相互防衛条約とは、第三国からの攻撃に対し、共同して防衛にあたることを約束する条約である。

 相互防衛条約の根拠は集団的自衛権である。

 初めに集団的自衛権について述べる。集団的自衛権とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利である」とされる。

 集団的自衛権の行使は国連憲章で認められている。

 だが、集団的自衛権の濫用を防止するため、国際法では①攻撃を受けた国による攻撃事実の宣言と、②攻撃を受けた国による他国に対する援助要請、の2つの要件が定められている。

 さらに、日本には憲法上の制約がある。

 これまでの政府見解は、「集団的自衛権は保有しているが行使できない」とするものであったが、政府は2014年7月1日に「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定」を行った。

 そして、「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容される」とする新たな政府見解が示された。

 上記の政府見解は、限定的な集団的自衛権を容認したものであって、フルスペックの集団的自衛権を容認したものではない。

 従って、現行の日米安全保障条約を相互防衛条約へ改定する場合には、新たな政府見解が必要となるであろう。

 次に、相互防衛条約が必ずしも参戦義務を約束するものでないことを強調したい。

 例えば、北大西洋条約第5条には「各締約国が、・・北大西洋地域の安全を回復しおよび維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的におよび他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する」と規定されている。

 すなわち、締約国は軍事力によらない援助を行うことができる。事実、軍隊を保有していないアイスランドが北大西洋条約に加盟している。

 次に重要なことは、同盟は対等な独立国同士の提携であるので、相互防衛義務に基づく援助の内容については、各締約国が独自に決定することになっていることである。

 例えば、ANZUS(Australia、New Zealand、United States)安全保障条約第4条には「自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処する」と規定されている。

 この表現は、日米安全保障条約と同じである。

 ANZUS条約と日米安全保障条約は同時代に米国が締結した条約であるので同じ表現となっているのであろう。

 従って、日米安保条約を相互援助条約に改定しても、「日本の憲法上の規定および手続に従って行動する」ことができるのである。

 現実的に考えても、世界の超大国の米国が日本に対して、米本土に援軍を要請するとは考えられない。援軍要請は、精々グアムまでであろう。

 次に、相互援助義務が適用される地理的範囲について述べる。

 相互防衛条約を締結する際に、条文に相互援助義務が課される地域を定める場合と、定めない場合がある。

 現行の日米安保条約や北大西洋条約、米比相互防衛条約は前者であり、中朝友好協力相互援助条約や集団安全保障条約(CSTO)は後者である。

 かつて、日英同盟においては相互援助義務が課される地域が制限されていなかったため、日本は艦艇を地中海に派遣した。

 以上の考察から、筆者が提言する日米相互防衛条約の案は、第5条を「各締約国は、日本または北アメリカもしくは太平洋におけるいずれかの締約国に対する武力攻撃が、自国の平和および安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定および手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と改定するものである。

 付言するが、日本が「対米防衛義務」を負うならば、当然、「施設・区域の提供義務」を解除することができる。

 しかし、在日米軍の存在が第三国への抑止力となっている事実を忘れてはならない。米軍基地の返還を要求することだけが「対米自立」の道ではないと筆者は考える。