それでも日本はスパイ天国のままだ

 2024年2月27日、経済安全保障分野における秘密情報の取り扱いを有資格者のみに認める、「セキュリティ・クリアランス制度」を創設する法案が閣議決定され、同日国会に提出された。

 同法案は、正式には「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」という。本稿では略して「重要経済安保情報保護法案」と呼ぶ。

 林芳正官房長官は2月27日午前の会見で同制度について「日本の情報保全の強化につながるほか、日本企業の国際的ビジネスの拡大につながるものと考える」と評価した。

 また、プライバシー保護などへの懸念については「適性評価のための調査に関して対象者に調査内容などを告知した上で事前に同意を取ることとしているほか、適性評価にあたって収集される個人情報は重要経済安保情報の保護以外の目的での利用・提供を禁止する」と説明した。

 また、「プライバシー権や個人情報保護に十分配慮した制度とすることは当然であり、実務でも担保されるように運用基準への反映も含めてしっかり検討していきたい」と語った。

 さて、我が国では、2013年12月6日に成立した「特定秘密保護法」によりセキュリティ・クリアランス制度が法制化された。

 しかし、この制度は「特定秘密」を取り扱う行政機関の職員および関連する民間人のみを対象としている。

 ちなみに、特定秘密とは、防衛に関する事項、外交に関する事項、特定有害活動の防止に関する事項、およびテロリズムの防止に関する事項に関する情報で特定秘密に指定されたものをいう。

 ところが近年、国際共同研究・開発の増加が見込まれており、産業界・学界を含めた包括的なセキュリティ・クリアランス制度の導入が喫緊の課題となっている。

 なぜならば、諸外国は、国際共同開発のパートナーである日本の企業に対して自国と同レベルのセキュリティ・レベルを求めてくると思われるからである。

 例えば、米国は武器輸出管理法(セクション2753)において「当該国または国際組織は、防衛物件または防衛役務の安全を確保すること、および米国政府がそれらの物件または役務に付与したものと実質的に同程度の秘密保護策を提供することに同意していること*1を物件または役務の外国への売却または貸与するために大統領の同意を得るための必要条件としている。

*1=原文は「the country or international organization shall have agreed that it will maintain the security of such article or service and will provide substantially the same degree of security protection afforded to such article or service by the United States Government.」

 上記の理由などから、政府は「重要経済安保情報」を取り扱う行政機関の職員および関連する民間人を対象としたセキュリティ・クリアランス制度の創設を急いだのである。

「重要経済安保情報保護法案」には、サイバーやサプライチェーンなどの経済安全保障分野を中心に、漏洩すると日本の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを「重要経済安保情報」に指定し、「重要経済安保情報」を取り扱うことができるのは国が「適正評価」を行って認定された人に限定し、情報を漏洩した場合は「5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金」を科すことなどが盛り込まれている。

「重要経済安保情報」とは、重要経済基盤に関する情報で、重要経済安保情報に指定されたものをいう。

 具体的には、「外部による行為から重要経済基盤を保護する措置又はこれに関する計画若しくは研究」や「重要経済基盤の脆弱性や革新的な技術」などが挙げられている。

 革新的な技術には、AI(人工知能)や半導体といった先端技術のサプライチェーン(供給網)や開発に関する情報が該当するとみられる。

 以下、初めにセキュリティ・クリアランス制度の概要とその必要性について述べる。

 次に、我が国の情報保全体制強化の経緯について述べる。

 最後に、「特定秘密保護法」と「重要経済安保情報保護法案」の相違について述べる。