119番通報しても消防車が来ない、救急車が来ない。いや、いずれも来られない——。「30年以内に70%」の確率で起きるとされる「首都直下地震」。被災して道路が寸断、沿道の電柱や建物が倒れて路上をふさぐ。消火が遅れたら、木造密集地は瞬く間に火災が拡大するだろう。住民は「助け舟」が来ないという事態をどれだけ想定できるだろうか。
一方で2011年3月11日の東日本大震災後に議論が浮上した「首都機能バックアップ論」。その後どうなったのか。能登半島地震から3カ月。このところ首都圏での揺れも目立つ。これを機に首都直下地震の主要課題をあらためて検証したい。
(長竹 孝夫:ジャーナリスト)
地震被災死者7割の1万6000人は火災原因
首都直下地震の被害想定は――。
国は、首都直下地震が起きると、最悪の場合、死者はおよそ2万3000人。発災直後に約5割の地域で停電し、上下水道は都区部で約5割が断水、約1割で下水道の使用ができないと想定している。
江戸時代から大正の関東大震災に至るまで、過去の地震の歴史記録などをもとに、近い将来発生すると予想される地震である。震源の異なる複数の地震が想定され、うち首都中枢機能への影響が最も大きいとされるのはマグニチュード7.3の「都心南部直下地震」だ。
冬の夕方、風が強い最悪の場合は、全壊または焼失する建物は61万棟に上り、うち火災で焼失するのはおよそ41万2000棟とされている。死者の7割にあたる約1万6000人は火災が原因で死亡すると予測。けが人は約12万3000人、救助が必要な人は約5万8000人、避難者は約720万人に達すると想定されている。
電気や上下水などのライフラインや交通への影響は長期化し、鉄道も最悪1カ月程度運転できない状況が続くとされる。一方、想定では火災対策を徹底し、建物を耐震化すれば死者は10分の1の約2300人に減らせると対策の効果も示されている。
東京は、多くのや車両が首都高速道路や幹線道路、都道、区道などを行き交う。いずれの道路も救急車や消防車にとって欠かせないが、沿道の電柱や老朽化した建物の現状はどうか。そして倒れたらどうなるのか。