特に若い黒人たちは違法行為に足を踏み入れないまでも、行き場のない鬱憤を抱え込んでいた。通りを行く白人に罵声を浴びせる者もいた。

 この状況に、裕福な白人たちは郊外に逃げ出し、警備員付きのゲートシティに閉じこもった。オフィスも移転し中心部には空のビルだけが残った。

 その結果、ヨハネスブルクの中心街にはますます仕事は無くなり事態は悪化した。

簡単にはなくせない分断

 熱狂の中でネルソン・マンデラに託された希望は現実の困難に直面していた。

 南アフリカは人種が共生する国家へと生まれ変わったが、そう簡単に人間の意識は変えられない。長く続いた人種の分断は、互いへの警戒とそこから生まれる憎しみという感情を育ててきた。だからこそ人種を越えて差別撤廃の活動を続ける人々の存在は重要だったのだが。

 その日、ANCの事務所が爆破されたという第一報が飛び込んできた。選挙を間近に控え、事務所も忙しい日々を送っていたところだった。

 駆け付けると、現場の10階建てのビルは窓ガラスがすべて粉々に砕け散り、散乱したガラスの上に、爆風で切断され吹き飛ばされた黒人男性の片足が落ちていた。爆弾テロだ。