医学の進歩によって飛躍的に伸びた寿命。仕事ができなくなっても、歩けなくなっても、寿命が尽きるまで生きるためにはお金も必要だ。そこまでに何を備えておけばいいのか──。『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)から考えて見よう。
※この記事は、『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)より一部抜粋・編集したものです。
(霜田 里絵:医師・医学博士。銀座内科・神経内科クリニック院長)
「脳」も「体形」もあきらめたら終わり
20代、30代のうちはいくら食べてもそんなに太らなかったのに、40代になるとある程度の努力をしないと以前のような体形を保てない──。そんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。
一度体形が崩れてしまうと、元に戻すのは大変です。たとえば、太ってしまったら膝が痛くなり、歩くのがつらいので外出が億劫になり、ますます太る。あるいは転んで骨折して入院してしまう。そんな負の連鎖まで引き起こす恐れがあります。
脳も同じです。老化するにまかせていると、どんどん記憶力が落ちたり、判断力が低下したり、思考が狭まっていったりします。人とコミュニケーションが取りにくくなり、お金の管理もできなくなる……。そうなったら大変です。
「歳だから仕方がない」とあきらめたら、脳はみるみるうちに衰えていきます。体形と同じで、あきらめず、脳を元気にする努力をしなければなりません。
なぜなら、現代は「人生100年時代」だからです。
昔は定年を迎えて60代、70代といえば立派なおじいちゃん、おばあちゃんでした。「老いては子に従え」なんていう言葉もあるように、少々判断力が鈍っても、それを本人も周りも許容して、誰かが手助けするような雰囲気がありました。
100歳まで長生きする人はごくまれでしたから、少々脳が老化していても本人も周りもそれほど困ることは多くなかったと思われます。
しかし、今はどうでしょうか。「人生100年時代」と言われ、60歳の定年から30年、40年と生きていくのが避けられなくなっています。人によっては100歳以上まで生きる可能性があります。
長生きは喜ばしいことです。ただ、老化した脳を抱えて何十年も生きるとなると、本人も周りの方もかなり大変な思いをする可能性があります。医療費や介護費がかかるだけでなく、生活の質が下がってしまいます。
長生きの可能性が高まっているなら、やはり脳はできるだけ長い期間、元気であるに越したことはありません。そのためには、体形と同じように脳にも気を配り、メンテナンスをし続けることが重要です。