遺言書の作成はもちろん重要(写真:takasu/イメージマート)

 医学の進歩によって飛躍的に伸びた寿命。仕事ができなくなっても、歩けなくなっても、寿命が尽きるまで生きるためにはお金も必要だ。そこまでに何を備えておけばいいのか──。『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)から考えて見よう。

※この記事は、『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)より一部抜粋・編集したものです。

(岡信太郎:司法書士、司法書士のぞみ総合事務所代表)

 前回記事「誰にも相続されず国庫に入る遺産は年600億円!自分の財産が宙に浮かないために生前にしておいた方がいい10のルール」の続きです。今回は⑥から⑩までのルールについてご説明いたします。

⑥「任意後見」で、自分で後見人を指定しておこう

 成年後見制度について説明した以前の記事「認知症になった親の財産が凍結されたらどうする?」で、面識のない第三者が後見人に選任されるケースが多いことをお伝えしました。

 ただ、成年後見制度には2種類あります。1つはすでにお話しした家庭裁判所に後見人を選んでもらうものです。これを「法定後見」といいます。

 もう1つは、あらかじめ後見人を指定しておく「任意後見」と呼ばれるものです。

 将来の認知症に備え、任意後見を利用して事前に自分で後見人を決めておけば、いざ後見人が必要となったときにすぐにサポートの段階に進んでもらうことができるのです。自分の人生を自分で決めたい人にとっては、任意後見は検討に値する制度です。

 任意後見では、後見人を選ぶのは自分自身です。家庭裁判所ではありません。後見人の資格に特に制限はなく、親族に依頼することもできます。普段から自分の面倒をみてくれる親族がいるなら、その方を後見人に指定しておくことができます。

 ただし、親族を選ぶ場合に注意すべきことがあります。子ども、甥や姪など、なるべく若い世代の方にしておいたほうがいいということです。自分と同世代の方を選んでしまうと、いざ利用したいときに相手も年を取っていて他人のサポートどころではない状態になっている確率が高いからです。

 若い親族がいない場合は、弁護士や司法書士などの専門職に頼むこともできます。将来、自分の財産を預けるかもしれない相手です。普段からお世話になっていて人柄をよく知っている、信頼している人を選ぶようにしてください。

 そうした専門職が身近にいなければ、各市町村にある地域包括センターの相談窓口に問い合わせてみることをおすすめします。

 後見人をお願いできる人が見つかったら、相手に相談して同意を得ましょう。相手が同意してくれれば、依頼したい内容を話し合い、任意後見契約書を作成します。

 後見人を誰にするかだけでなく、何をお願いするかまで細かく決めなければなりません。

 口座の凍結を心配しているのなら、金融機関の取引に関することを契約書に盛り込みます。将来、施設に入るときに所有している不動産を売却して施設入居の資金に充ててほしいと考えているなら、不動産の売却についても盛り込みます。

 契約書は公証役場で締結し、公正証書にします。相手が弁護士や司法書士であっても、公証役場での作成が必須です。

 任意後見は法定後見と異なり、将来の認知症に対する備えですから、後見人が実際に動くのは先の話になります。実際に動いてもらうことになれば、月々の費用が発生します。