脳の広範囲を刺激する手指の領域

ホムンクルスの図
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 その体の各部分の大きさは、大脳皮質運動野の担当領域の面積に対応するように描かれています。手の領域がとても大きいことがわかるでしょう。

 これはつまり、手指の感覚に関わる脳の領域が広いことを表しています。毎日手指を動かしていれば、こんなにも脳の広範囲を刺激することができるのです。

 手指だけでなく、体を動かすことも脳のメンテナンスに効果的です。

 生物学者のベルンド・ハインリッチは、私たちの体を支配している遺伝子は約10万年以上前に進化したものであり、当時の人類は食料を得るために絶えず動き回っていただけでなく、かなり足の速い生き物を狩りによって捕らえていたと指摘しています。

 身体活動なしに食料を得ることができるようになったのは人類の長い歴史の中でもごく最近のことで、私たちの遺伝子は盛んな身体活動を欲しているのではないか、ともハインリッチは言っています。

 このハインリッチの指摘をふまえると、身体活動が少なければ、私たちの脳や体になんらかの不調を来たす恐れがあると考えられるのです。

 カリフォルニア大学アーヴァイン校の神経学者、カール・コットマンは、運動と認知機能が生物学的に結びついているという研究成果を発表しています。

 脳の中のニューロン(脳の神経細胞)を育てる脳由来神経栄養因子(BDNF)は、海馬に多く存在することがわかっています。シャーレに入れたニューロンにBDNFを振りかけると、ニューロンは新しい枝を伸ばし成長させます。

 またBDNFは細胞の死というプロセスからニューロンを守ることもわかっています。コットマンはラットを使った研究で、走らせたラットの脳でBDNFが増えることを明らかにしています。

 つまり運動も脳の細胞を増やし、脳のメンテナンスをするのに役立つのです。

霜田里絵(しもだ・さとえ)/医師・医学博士。銀座内科・神経内科クリニック院長。
 順天堂大学医学部を卒業後、同大学病院の脳神経内科医局を経て、都内の病院勤務。2005年から、銀座内科・神経内科クリニック院長を務めるとともに、2011年には医療法人社団ブレイン・ヘルスを設立し、理事長に就任。パーキンソン病、認知症、脳血管障害、頭痛、めまい、しびれなどが専門。日本神経学会専門医、アメリカ抗加齢医学会認定専門医。
 著書に『一流の画家はなぜ長寿なのか』(サンマーク出版)、『絶対ボケない頭をつくる!』(学研パブリッシング)、『100歳まで絶対ボケない「不老脳」をつくる!』(マキノ出版)、『脳の専門医が教える40代から上り調子になる人の77の習慣』(文藝春秋)などがある。