脳は何歳からでも若返ることができる

 ただ、安心してください。脳はメンテナンスさえすれば若返ることができます。しかも、年齢は関係ありません。何歳からでも若返ることができるのです。

 1980年代までは、成人の脳細胞は減っていく一方で増えることはないというのが定説でした。

 ところが、1998年にスウェーデンの研究者らが「海馬をはじめとした脳のいくつかの部位では、新たに細胞が生まれ続けている」という研究成果を発表しました。

 海馬とは、記憶の中枢として新たな知識・体験・刺激などを受け入れている部位です。新たに生まれた神経細胞はその神経回路に組み込まれて機能しているというのです。

 新生した神経細胞はメンテナンスしなければ減ってしまいます。しかし、新しいことを学び続けることで神経回路は複雑化し、神経細胞の数は増えます。新しい刺激を与え続け、脳をメンテナンスすれば、海馬など特定の部位の神経細胞は何歳になっても増え続ける。それがひいては「不老脳」をつくるのです。

 私は、脳に関連したさまざまな不調や疾患を診る毎日の中で、脳は刺激すればするほど成長し続けることを実感しています。新しいことにチャレンジしたり、脳に刺激を与えたりする生活習慣を持っている人ほど、80代、90代になっても自分らしくいきいきと過ごしているのです。

 その実例を1つ紹介しましょう。私の父です。

 父は70歳のとき、妻(私の母)の死をきっかけに「認知症予備軍」になりました。現役時代は経営者として活躍し、頭脳明晰でダンディな父でしたが、妻が亡くなってからは塞ぎ込んで自宅でぼんやりと過ごすことが多くなってしまいました。

 そこで、私は父の生活改善に乗り出しました。1日30分の散歩をしてもらい、毎朝、電話でどのルートを歩いたのか、時間はどれくらいかかったかを話してもらうようにしました。脳を刺激するため、いつもと逆のルートを通ることもすすめました。

 父を積極的に頼り、役割を担ってもらうことも意識しました。

 私のクリニックの人事問題や資金繰りについて相談したところ、元経営者の血が騒いだのか、いきいきとして的確なアドバイスをしてくれるようになりました。私の子どもたちの勉強法や進路について相談したこともあります。

 娘や孫の問題解決を助けるという生きがいを見出してからは、父の表情は豊かになり、話す内容もポジティブに変化していったのです。