これが本当に梨の木なのか? いつも我々が食べている梨の栽培で、まさかのクレイジーなイノベーションが起きている。神奈川県平塚市にある農業技術センターを訪ねて、生産技術部長の柴田健一郎さんから、わくわくするイノベーションの秘話を聞いた。
(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
梨にも訪れたイノベーション
梨狩りにいったときの風景を思い出すと、広い敷地に大きな木が育っていて、人の背丈より少し高い棚いっぱいに枝が巡らせてあって、そこに葉が茂り、実がぶら下がっている——というのが普通だと思う。写真1は、このような伝統的な方法で栽培している梨だ。木1本が覆う面積は50平方メートルから100平方メートルにもなる。
だがこれだと、農家はずっと上を向いたまま剪定や収穫の作業をしなければいけないので、くたびれる。それに何より、木を大きく育てるまでの間、収穫量がなかなか増えない。収穫量が本格的に増えて安定する(成園という)までに10年もかかるという。
リンゴなど他の果樹については、枝が勢いよく伸びなくなる矮性(わいせい)の台木を開発した上で、コンパクトな樹形に抑えるように剪定し、列状に並べることで、剪定や収穫をやりやすくする「矮化」栽培が当たり前になってきた。また隣の木との間隔を狭くした密植にすることで、収穫量が最大になるまでの時間が短い早期成園を実現した。
ところが梨についてはそのような技術開発は行われてこなかった——この理由は興味深いのだが、後ほど。
数珠つなぎに接ぎ木する「ジョイント仕立て」
そんな今から30年前の剪定作業中、柴田さんは同僚が「大きく伸びた枝同士、いっそのこと接ぎ木したらどうだ」と冗談を言っているのを聞いた。そんなことをしてもさしたる意味はないのだが、これで柴田さんは閃いた。
梨の木の苗を一列に並べ、数珠つなぎに接ぎ木したらどうか——
それでできたのが写真2(次ページ)のような梨の木である。