紫式部と清少納言はどんなバトルを展開するのか

 道隆が催した漢詩の会では、重要な出会いが2つあった。ひとつは、まひろと三郎、つまり、道長との再会である。まさか会えると思っていなかった2人だが、道長はとっさに名高い唐の詩人、白楽天の歌を詠んでいる。意味は次のようなものだ。

「重陽の節句に主君より賜った菊花酒は杯に満ちているが、一体誰とともにこの酒を飲むというのだろうか。宮廷に生える菊花を掌に手のひらにいっぱいすくい上げると、一人でただ君のことを想う。君を偲びつつ、菊花のそばに立って、日なが一日、君が作った菊花詩を口ずさんでいる」

 もう気持ちが抑えられなかったのだろう。漢詩の会のあとに、さらに、まひろにこんな歌を歌っている。

「ちはやぶる 神の斎垣も 越えぬべし 恋しき人の 見まくほしさに」

 この歌は『伊勢物語』の「ちはやぶる 神の斎垣も 越えぬべし 大宮人の 見まくほしさに」の一語を置き換えたものだ。宮中に仕える役人を指す「大宮人」を「恋しき人」に変えている。

「私は、越えてはならない神社の垣根も踏み越えてしまいそうだ」というところは共通しているが、もともとは「宮廷からおいでになった方が見たくて」とその理由を語っているところを、道長は「恋しい人が見たくて」と変えたことになる。ストレートな恋の歌を届けられて、まひろは手紙を胸に抱きしめた。

 もうひとつの出会いが、まひろとファーストサマーウイカ演じる清少納言との出会いである。史実では2人が出会った形跡はないが、「漢詩の会」は出会いの場としては、ぴったりである。さっそく歌の解釈を巡り、2人の意見は分かれている。

小倉百人一首の57番紫式部、62番清少納言の和歌(写真:AGRXーstock.adobe.com)

 紫式部が『紫式部日記』で清少納言を散々にこき下ろしているのは有名な話だが、これからどんなバトルが展開されるのだろうか。今後は、ますます漢詩や和歌の教養があれば、より楽しめる展開になりそうだ。

 次回の「おかしきことこそ」では、まひろが散楽の台本と格闘。まひろに密かな思いを抱いていそうな猿楽の一員、毎熊克哉演じる直秀とのやりとりが楽しみである。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など。