「角盥」で月を眺めた平安時代の美しき習慣
今回の冒頭シーンでは、まひろがたらいに張った水に浮かぶ月を眺めていると、やがて三郎の顔が浮かぶ。「まひろの言うことを信じる」という言葉を思い出すと、まひろは涙をぬぐうように、水で顔を洗っている。
美しいシーンだ。唐代の詩人・宇良史(うりょうし)による『春山夜月』の次のような詩の一説に由来している。
「水を掬すれば月手に在り」(「掬水月在手」)
大空に輝くたった一つの月も、手で水をすくえば手の中にすることができる――。三郎への思いがあふれながらも、まひろが気持ちを断ち切らねばと自分に言い聞かせていることが、ひしひしと伝わってきた。まひろが父に「左大臣家への接近を」と訴えたのは、このあとのことである。
さて、平安時代には、このような水や湯を入れ、顔や手足を洗う器のことを「盥(だらい)」と言い、木製で広く使われている盥(たらい)のことを「角盥(つのだらい)」と呼んだ。角盥は、持ち運びをしやすくするため、角状の取っ手が左右に2つずつ付いているのが特徴となる。
七夕には、この角盥に梶の葉を浮かべて、水面に星を映して眺める習慣があった。そんなシーンも出てくるのだろうか。ドラマに登場する生活用品に注目してみるのも面白いかもしれない。