医師になるのは「カネ」と「プライド」のため

 そして、何より注目すべきなのは、医学部を目指す若者の動機が「不純」であるという点だ。昨年11月、日本の科学技術振興機構が運営する韓国コラムに掲載された記事の中で、済州大学医学専門大学院のイ・サンイ教授は次のように述べている。

「医師の数が足りないのは事実であり、増やすこと自体には反対しない。ただ、今は増やしても人気のある分野、収入が高い分野に集中するだけである。必要なのは、必須医療分野での医師の増加である」

 つまり、医学部の定員を増やしても、高齢化社会で必要とされる分野での医師の増加が見込めないという。

韓国の大学入試は苛烈を極める。写真は2023年の大学入試を前に祈る学生の母親(写真:ロイター/アフロ)

 韓国では以前より、医学部を目指す若者は、医師という仕事そのものより、職業としての安定性や、収入の高さ、そして社会的な尊敬に関心をもっている。ちょうど1年ほど前になるが、韓国メディアのヘラルド経済では、次のような声が紹介されている。

 医学部4年に在学中の学生は、「理系だと卒業して就職するまでに何年もかかるが、医学部だと落第さえしなければ就職が保証される」と話す。また、理系の浪人生によれば、医者が高収入であるために、「医学部に出願しないのは人生の損」という認識が広まっているという。

 そこには「患者を救いたい」という意識は希薄だ。そうした状況では、定員の増加が必要とされている医療の充実に必ずしもつながらないという理屈は理解できる。